アルジェリアのアラブ・アンダルース音楽に新たな響きをもたらす『ヌーバ・ノーヴァ』。ライス・レコードでは2021年に、マルーフの名歌手ハムディ・ベナニ(Hamdi Benani/19432020)と革新的ウード奏者メーディ・ハダブによる第1作(BDR-6056)をご紹介しました。ハムディの遺作となった前作に続き、今回メーディが共演するのは、女性歌手/クイトラ奏者メリエム・クーフィ(Meryem Koufi)。古典の豊かな詩情と現代的なアレンジが出会うシリーズ第2弾です。 メリエムは、歴史と文化が息づくアルジェの古い街区で育ち、名高い師匠たちのもとで音楽を学びました。歌とともに優れた演奏技術を身につけたクイトラ(kouitra)は、4組の複弦を持つ小型のリュートで、アルジェやトレムセンのアラブ・アンダルース音楽を特徴づける楽器です。その後はチュニジアやスペインへと渡り、そこで得た経験も自身の音楽に取り込んできました。伝統に根差しながらも、その厳格な様式にとどまらない彼女の姿勢は、澄んだ響きと強い表現力を併せ持つ歌声にも表れています。 メーディ・ハダブ(Mehdi Haddab)は、デュオ・ウードやスピード・キャラヴァンでの活動でも知られる先進的な音楽家。アラブ音楽を背景にエレクトリック・ウードの可能性を広げてきた彼は、本作でもウードに加え、ギター、ベース、キーボード、プログラミングを担当。プロデュース、録音、ミキシングも手掛け、メリエムと共に作品全体を構想しています。これまで様々な音楽との出会いを重ねてきたメーディの多彩な音楽経験と、メリエムが身につけた古典の素養。その双方を生かし、アルジェに根差す音楽を新しい形で響かせています。 タイトルの「ヌーバ」とは、アラブ・アンダルース音楽の組曲のこと。本作ではアルジェのヌーバを構成する5つの楽章に沿いながら、その内側に新しい響きを織り込んでいます。特徴的なのは、強拍と弱拍を分け、ドラムズ、ベース、シンセサイザー、コンガなどに振り分けるアレンジ。組曲の骨格を踏まえつつリズムを組み替え、伝統の旋律と詩に新たな動きを与えています。ヴァイオリン、カーヌーン、ダルブッカなども加わり、古典と現代の楽器が共に音楽を形作ります。 冒頭の「Tahya Bikoum Part I」には、レッド・ツェッペリンの「カシミール」を思わせるアラビックな雰囲気が漂い、メリエムの歌と共に作品の世界へと誘います。全14曲には、3部に分けたこの曲のほか、それぞれ2部からなる「Laou Kan El Milah Younsifou」「Atir Al Anfass」、クイトラを曲名に掲げた「Istikhbar Kouitra Zidane」などを収録。歌詞には、愛する人の美しさを雨や星、月や花になぞらえる言葉、別れの苦しみ、酒と恋に心を委ねるひとときが描かれています。楽器編成やリズムを更新しながら、古い詩に息づく感情を現在へ届ける作品なのです。 また本作は、ハムディ・ベナニをはじめ、レネット・ロラネーズ(Reinette l’Oranaise)やムスタファ・スカンドラーニ(Mustapha Skandrani)など、アラブ・アンダルース音楽を支えてきた先人たちへのオマージュでもあります。伝統への敬意と、そこから自由に音楽を広げる意志を、メリエムの歌とメーディのウードが結びつけた一枚。前作に魅了された方はもちろん、現代のアラブ音楽に関心を持つ方にもぜひお楽しみいただきたい作品です。
●日本語解説/帯付き
トラックリスト
1. Tahya Bikoum Part I 2. Istikhbar Kouitra Zidane 3. Tahya Bikoum Part II 4. Tahya Bikoum Part III 5. Laou Kan El Milah Younsifou Part I 6. Laou Kan El Milah Younsifou Part II 7. Koursi Rasd 8. Istikhbar F’hal Ghrib 9. Dumui Rassayel 10. Atir Al Anfass Part I 11. Atir Al Anfass Part II 12. Istikhbar for Erik 13. Rimoun Nadhratni 14. Aroubi Mezmoum
2026年11月15日発売 MERYEM KOUFI & MEHDI HADDAB / NUBA NOVA 2