|
ピート・シーガーに敬意を評し、彼の名曲の数々をクロノス・クァルテットが再構築
1978年よりサンフランシスコを拠点に活動している弦楽四重奏団クロノス・クァルテット。これまで彼らは、古典以前のクラシック、ミニマル・ミュージックなどの現代音楽の演奏に加え、タンゴ、民俗音楽、さらにはジャズ、ロック、エレクトロニックをはじめとするポピュラー・ミュージックとのクロスオーバーに取り組むなど、弦楽四重奏団としてはあまり前例のない試みで注目を集め、その無限の可能性を私たちに明示してきました。そんな彼らが今回テーマとして取り上げたのは〈プロテスト・ソングの父〉こと米国を代表するフォーク・ミュージシャン、ピート・シーガー(1919 - 2014)です。
1919年、ニューヨーク州で誕生したピート・シーガー。学生時代にはラディカルな政治活動とフォーク・ミュージックにのめり込み、ハーバード・カレッジを中退。以降プロ・ミュージシャンとして活動を開始しました。核軍縮運動や公民権運動が過熱し始めた60年代には「花はどこへ行った」などの反戦歌や、公民権運動を象徴する歌として黒人霊歌「ウィー・シャル・オーヴァー・カム」を世に普及。リべラルな思想を持つ人々から絶大な支持を集めると同時に、フォーク・リヴァイヴァル運動の中心人物としても一時代を築き上げ、米国音楽史にその名を刻んだ人物です。そんなシーガーは、昨年生誕100周年を迎えました。
クロノス・クァルテットはシーガーのあくなき挑戦に満ちた人生と彼が遺していった素晴らしい作品の数々に敬意を評し、今回のアルバムを制作。トラディショナル・フォーク・ミュージックを現代的な音に再構築するという、その類まれな才能に注目が集まる米国のSSW:サム・アミドン、ボストン拠点に活躍するバンド〈ビート・サーカス〉のリード・シンガー、そしてジャズ+チェンバー・ミュージックのアンサンブル・オーケストラ〈ゴースト・トレイン・オーケストラ〉のディレクターとしてもお馴染みのブライアン・カーペンター他をゲスト・ヴォーカルに迎え、シーガーの代表曲「花はどこへ行った」「ターン・ターン・ターン」「ウィー・シャル・オーヴァーカム」を室内楽風に演奏するなど、クロノス・クァルテットならではの大胆な試みを展開させています。他にも、クロノス・クァルテットのリリカルな演奏に、東アフリカ音楽の影響を受けたサンフランシスコの女性SSWメクリットがエモーショナルな歌声を重ねた②、スペイン出身の女性歌手、マリア・アルナルをヴォーカルに招いたバルセロナ公演のライヴ音源⑤⑫も収録されています。そして本作一番の聴きどころは何と言ってもアイリッシュ・フィドル風の演奏も盛り込んだ彼らのインテレクチュアルかつアヴァンギャルドな四重奏に、シーガーの残したインタビュー音声や歌声などを重ね、彼の人生を振り返った圧巻の長尺ナンバー⑦。非常に実験的でありながらも、シーガーの人生に対する深いリスペクトがダイレクトに感じられる一曲に仕上げられています。クロノス・クァルテット/ピート・シーガー・ファンの方は必携の作品です!
KRONOS QUARTET AND FRIENDS / LONG TIME PASSING:KRONOS QUARTET AND FRIENDS CELEBRATE PETE SEEGER(2LP) |