インドネシア西ジャワ州バンドン出身のジャズ・ギター界の巨匠:ドニー・スヘンドラ(1960-2022)。彼自身の優れた音楽的センスや超高度な演奏力はもちろんのことですが、才能ある多くの素晴らしき仲間たちにも恵まれた結果、インドネシア・ジャズ〜フュージョン史に残る数々の名演/名作を数多この世に送り出すこととなりました。同シーンきってのスーパー・ギタリストとして、長きにわたり第一線で活躍し続けてきたドニーですが、多くのファンや仲間たちに惜しまれる中2022年、62歳でこの世を去ることに。そして没後3年を経た今年、彼の遺作にして最高傑作『オリジン』が、ついに公式リリースされることとなりました。 1977年、17歳でギタリストとしてのキャリアをスタートしたドニーは、1985年、マルチジャンル鍵盤奏者:ドゥウィッキ・ダルマワンらと共に、伝説のジャズ・フュージョン・グループ:クラカタウを結成。超高度な演奏力の上に成り立ったタイトなバンド・アンサンブルと、インドネシア伝統音楽要素を融合させた独自の音楽性を擁する同バンドは、デビューと同年に東京で開催されたヤマハ主催のバンド・コンテスト“BAND EXPLOSION”世界大会でグランプリを獲得し、さらにはドニー個人としてもインドネシア最優秀ギタリスト賞を受賞するなど、大変に大きな話題を呼びました。 その後90年代に入ると、ドニーはインドネシア・ジャズの開祖:ジャック・レスマナを父に持つ超絶技巧系キーボード奏者:インドラ・レスマナらと共にバンド:SCENEを結成し、3枚のアルバムを制作。同年には米国主要都市での公演も果たしています。また90年代中盤からは、セッション・プレイヤーとしても華々しく活躍。1999年には、ソロ・アルバム『Here There is Life』をリリースしましたが、この時のレコーディング・メンバーには、インドネシア民族音楽振興活動の中心人物として知られるドラマー:ギラン・ラマダンほか、インドネシア・ジャズ界きっての敏腕たちが参加していました。その後2006年には、シャハラニ&クィーンファイアワークスのアルバム『Syaharani』の制作に参加。その後ツアーにも同行しています。 そんな輝かしい音楽家人生を送ってきたドニー。遺作にして最高傑作との呼び声も高い本作『オリジン』のレコーディング・メンバーはドニー(エレクトリック/アクースティック・ギター)を中心に、アディ・ダルマワン(エレクトリック/アクースティック・ベース)、デマス・ナラワンサ(ドラムズ)、イクバル(ドラムズ)で構成。全曲にわたりフィーチャリング・ゲストが参加していますが、いずれも彼の親しい友人であるインドネシア・ジャズ〜フュージョン界を代表する錚々たる面々(インドラ・レスマナ、デワ・ブジャナ、トーパティ、シャハラニ、アガム・ハムザ、バリー・リクマフワ)となっています。作品はドニーが得意とするテクニカルなフュージョン・ナンバーを中心に、タイトなファンク・ナンバーやアクースティック・ギターによる美しいフォーキー・ポップ・チューンなどで構成。特筆すべきは、収録されているギター演奏がすべてドニーのオリジナルであると言う点で、他のミュージシャンによるオーバーダブは一切ありません。また、「Cintaku Negeri」では、シャハラニがドニー作詞による歌詞を歌唱。生前ドニーは作詞することに対して臆病な一面を見せていたとも伝えられていますが、この楽曲こそ、本作の感動的なハイライトの一つとなっています。ドニー・スヘンドラの遺作にして最高傑作。是非ご期待ください。
トラックリスト 1. Origin 2. Los Feliz 3. Tamu Dari Timur 4. Ten Spirit 5. Mimpi Sang Bunda 6. Guriang 7. Cintaku Negeriku 8. New Waters 9. Lagu Dari Masa Laluku