最近ではファイルーズやウム・クルスーム、フランコ、ビオレータ・パラ、シェリファ、ハジャ・エル・ハムダウィアなどといった、アラブやアフリカ、南米大陸の音楽に至るまで良心的な編集盤などを制作してきたフランスのレーベルMLPから、今度は同社のもっとも得意とするアルジェリア音楽の集大成作品が発表されました。
オリジナルの副題で“60 Ans De Musique Algérienne”とフランス語で書かれたこれは、そのまま“アルジェリア音楽60年史”といった意味合いを持ったコンピレーション。実は今年2022年は、アルジェリアがフランスから独立した1962年からちょうど60周年で、本作はまさにそのことを記念して制作された2枚組編集盤です。ここにはこの60年間のアルジェリア音楽の大まかな流れが記されており、ある種の「アルジェリア音楽歴史物語」のような内容に仕上がっています。
CD1の冒頭は1963年に国歌として採用された「カッサマン」からスタートしますが、一方で同じ頃ボリス・ヴィアンとのコラボで生まれたハロルド・バーグの反軍国主義の歌「Le Déserteur」も同時に収録されています。その後時代はイエ・イエのブームとなり、モハメッド・ラマリ、マイエディン・ベンティールといった若手スターが登場。一方伝統音楽シーンからは、ルーツ・ライの女性歌手シェイハ・リミッティ、アラブ・アンダルース音楽ハウジの女性歌手ファディーラ・ジリーヤ、生涯600曲以上のレパートリを残したカビール人女性歌手シャリファといった歌手たちが登場し、シーンを彩るようになってゆきます。
続くCD2では70年代以降の新しいアルジェリア音楽シーンの動きを追った内容。まずはシェブ・ハレドにも大きな影響を与えたことで知られるライ歌手ブタイバ・スギルが冒頭に登場。そしてシャアビという大衆音楽を代表する名歌手ダハマーン・エル=ハラッシ、カビリアのボブ・ディランと称されたプロテスト歌手ルネース・マトゥーブ、1980年にパリで結成された人気ライ・バンドのライナ・ライなどが矢継ぎ早に登場。そしてハレドと人気を二分したライ歌手シェブ・マミ、80〜90年代にライの第二世代として活躍したシェブ・ハスニ、マトゥーブの遺志を継ぐカビール系SSWのスリムなどが登場し、ラストは“マグレブ・ラッパー”の第一人者レバ・シティ・16まで、ジャンルにとらわれない様々なアルジェリア音楽が楽しめる内容に仕上がっています。
ブックレットには近年の同社のアルバムとしては珍しく6ページに渡るライナーノーツ(但し仏文のみ)を収録しているので、一応の資料性もあり。これまで有りそうで無かったポップスも含めたアルジェリア音楽の集大成だけに胸を張ってお勧めいたします。