今年で結成54年目を迎えた老舗ブルーグラス・バンド:ザ・セルダム・シーン。活動初期である1970年代からは、ブルーグラスの新しい波〈プログレッシヴ・ブルーグラス〉の中心的バンドとして第一線で活躍し、以降もブルーグラス・シーンの担い手として、現在に至るまで24枚近くのアルバムをリリースしてきました。しかし活動歴を重ねる中、メンバーの顔ぶれも徐々に変化。創設メンバー最後の一人だったベン・エルドリッチ(バンジョウ)も2016年には引退、2024年に他界してしまい、現在のメンバーはルー・リード(マンドリン/リード・ヴォーカル。1986~93年在籍/96年再加入)、ダドリー・コーネル(ギター/ヴォーカル。1995年より在籍)、ロン・スチュワート(バンジョウ/フィドル/ギター/ヴォーカル。2017年加入)、ロニー・シンプキンズ(ベース。2000年頃に加入)、フレッド・トラヴァーズ(ドブロ・ギター/ヴォーカル。1995年より在籍)の5名となります。しかしグループが元来持つ伝統をふまえた高度なテクニック、そして革新的な音楽センスはしっかりと踏襲されており、ブルーグラス・スタンダードの新解釈や、ポピュラー・ソングのブルーグラス・アレンジなどといった心躍るようなチャレンジは、現在も継続されています。 今回ご紹介する作品は、先述した創設メンバーにして先駆的なバンジョウ奏者:ベン・エルドリッジが亡くなってから初めてリリースされることとなったアルバムであり、グループ最大の功労者であるベンへと捧げられた一作でもあります。冒頭1曲目は、ブリティッシュ・インヴェイジョンを代表するバンド:ザ・キンクスが1968年にリリースした傑作アルバム『ヴィレッジ・グリーン・プリザヴェイション・ソサエティ』に収録されたR&B/ブルース・ナンバー‘Last of the Steam-Powered Trains’のカヴァー。ブルーグラス・ナンバーとしてテンポアップされたセルダム・シーンのヴァージョンは、スタンレー・ブラザーズ (1946~1966)やデル・マクーリー・バンドを彷彿とさせるようなタイトな仕上がりとなっています。③の‘A Good Time Man Like Me Ain't Got No Business (Singin' the Blues)’は、1960年代半ばから70年代初頭に人気を博したSSW:ジム・クロウチ(1943-73)がリリースした生前最後のシングルのカヴァー。こちらではロン・スチュワートのテクニカルなフィドル演奏がたっぷりとフィーチャーされています。続く④はフラット&スクラッグスのカヴァー、⑤⑥はボブ・ディランのカヴァー(⑥は西海岸ブルーグラス/カントリー・ロック・シーンで人気を集めたザ・ディラーズも1962年にリリース)と、セルダム・シーンならではのフレッシュな新解釈/素晴らしいアレンジ・センスが光ります。無論カヴァーのみならず、セルダム・シーンの人気レパートリとして知られてきた1974年のナンバー(⑨)の非常に感動的な焼き直しなども登場。この先も前に進み続け、未知の世界を開拓していく意欲に満ちた、そんな彼らの活きいきとした演奏は、全てのブルーグラス・ファンの方必聴です!!!
●日本語解説/帯付き
トラックリスト 1. Last of the Steam-Powered Trains 2. Crossroads 3. A Good Time Man Like Me Ain’t Got No Business (Singin’ the Blues) 4. Hard Travelin’ 5. Farewell, Angelina 6. Walking Down the Line 7. Lonesome Day 8. I Could Cry 9. White Line 10. Show Me the Way to Go Home 11. The Story of My Life
2025年3月16日発売 THE SELDOM SCENE / REMAINS TO BE SCENE