“帝王(mparator)”の愛称で国民的な人気を誇るイブラヒム・タトルセス(brahim Tatlses, 1952- )。彼はトルコ南東部サンルウルファの出身で、クルド系の家庭に生まれ、歌手として成功する前は鉄工所や建設現場で働いていたといいます。貧しい労働者階級の出自を持ちながら、その類い稀な歌唱力で一躍脚光を浴びた彼は、まさにトルコの〈ワーキング・クラス・ヒーロー〉と呼ぶにふさわしい存在でした。 1970年代半ばにレコード・デビューを果たすと、トルコ独自の大衆音楽〈アラベスク〉の旗手として瞬く間に人気を獲得。1980年代には「Ayanda Kundura」「Dom Dom Kurunu」「Mutlu Ol Yeter」といったヒットで大衆の心をつかみ、名実ともにトルコ歌謡界の頂点に立ちました。アラベスクとは本来「アラブ風」を意味する言葉ですが、タトルセスの音楽はアラブ的な旋律や打楽器に加え、トルコ古典声楽、西洋のポップス要素などを柔軟に取り入れた大衆音楽であり、地方出身者を中心に幅広い共感を呼びました。 その力強い歌声と哀愁漂う表現は、トルコ人の郷愁や人生の悲喜を体現するものとして、国境を越えて中東全域に広がりました。また彼は俳優として数々の映画に出演し、テレビ番組の司会者としても人気を博し、航空、衣料、食品など多岐にわたる事業を手掛ける実業家としても成功。庶民的な出自と華やかな成功を併せ持つ姿は、多くのトルコ国民にとって憧れの象徴となりました。2011年に暴漢に襲われて歌手活動を休止するまで、常に第一線で活躍し続けたその存在感は、まさに“帝王”と呼ばれるにふさわしいものでした。 そんな彼が1995年に発表したアルバム“Klasikleri”は、それまでのキャリアを代表する名唱を網羅した当時の決定盤でした。本盤はその内容を忠実に収めた180グラム重量盤アナログ復刻で、ゲートフォールド仕様の豪華なパッケージとともに蘇りました。「Mutlu Ol Yeter」「Bir Kulunu ok Sevdim」「Ayanda Kundura」「Dom Dom Kurunu」など、タトルセスのファンなら誰もが知る代表曲を含む全12曲が収められ、まさに“帝王”の歌声の真髄を堪能できる内容となっています。 アラベスク歌謡の歴史を理解するうえで欠かせない重要作であり、タトルセスの栄光の軌跡を体感できるアルバム。往年のファンはもちろん、初めてトルコ歌謡に触れるリスナーにとっても格好の入門盤といえるでしょう。
トラックリスト A1. Mutlu Ol Yeter A2. Yalnzm / Felek / Ayem A3. Dom Dom Kurunu A4. Ayanda Kundura B1. Yalan B2. Yorgun B3. Bir Kulunu ok Sevdim / Yklmm Ben / Ac Gerekler B4. Bir Mumdur