ブラジル・サンパウロに生まれ育ちながらも、幼い頃からファドに魅了されてきた歌手、マリア・エミーリア。ポルトガル出身の祖父が父に伝え、そして父から娘へと手渡されたファドは、彼女にとって“遠い異国の伝統”ではなく、家族のなかで自然に息づいてきた、もうひとつの故郷の言葉でした。 幼少期にポルトガル北部ミーニョ地方へ移住し、地元のレストラン〈Taberna do Ganso〉などでファドに触れた彼女は、ごく自然にその歌を自身のものとしていきます。その後いったんブラジルに戻り、〈Alfama dos Marinheiros〉で歌うも、ファドとポルトガルへの郷愁から再び海を渡り、リスボンの名門ファド店で本格的なキャリアを開始。現在では、ブラジル、スペイン、スイス、ベルギーなど各地で公演を行い、ファドの精神を国境を越えて伝えています。 本作『カーザ・デ・ファド』は、そうした彼女の旅路のなかで生まれた初のアルバムです。タイトルは直訳すると“ファドの家”ですが、これはリスボンなどで生のファドを聴かせるレストランや酒場を意味しており、転じて、歌と記憶、ルーツが交差する親密な空間を象徴しています。作品には、アルフレード・マルセネイロ、ジョゼー・フォンテス・ローシャ、ラウル・フェローンといったファドの名作曲家たちによる楽曲が取り上げられ、「Perfeito Pecado」「Sou um Fado desta Idade」のような哀愁に満ちたナンバーから、「Um dia cheguei-me a ti」「Agora」のような内省的なバラードまで、彼女の歌声は端正にして感情豊かに響きます。 伴奏には、今年来日も果たした現代最高峰のギターラ奏者、ジョゼー・マヌエル・ネト（Jos Manuel Neto）が参加。精緻なフレーズと深い余韻が、マリア・エミーリアの澄んだ声を美しく引き立てています。さらに終盤には、アコーディオン奏者ドミンギーニョスが作曲し、エルバ・ラマーリョによって大ヒットした「De volta para o meu aconchego」や、エドゥ・クリーゲルによる「Minha paz」といったブラジル音楽も収録され、彼女が生きるふたつの文化の交差点が穏やかに描き出されます。 伝統への敬意と、呼吸するように自然な表現力。現代ファドの“声”として、静かに強く歩み続けるマリア・エミーリアを、ぜひご堪能ください。
トラックリスト 1. Casa De Fado 2. Queira Deus 3. Um Dia Cheguei-Me A Ti 4. Sem Razao 5. Perfeito Pecado 6. E Mentira 7. Muito Embora O Querer Bem 8. Se Nao Gostasse De Ti 9. Agora 10. Sou Um Fado Desta Idade 11. Lisboa Bonita 12. Foi Deus Que Quis Assim 13. De Volta Para O Meu Aconchego 14. Minha Paz
