本作が本国ポルトガルで発売された2020年は“ファドの女王”アマリア・ロドリゲス（1920-99）の生誕100年にあたる記念すべき年でした。リスボンの下町に生まれ、40年代初頭から歌手として活動を始めたアマリアは、庶民の音楽だったファドを劇場やレコードを通じて世界に広め、ポルトガル文化の象徴的存在となった人物です。その圧倒的な歌唱力と表現力により「20世紀を代表する歌手のひとり」と評され、今なお絶大な影響を与え続けています。 その節目にあわせ、ポルトガルの名門レーベル〈Valentim de Carvalho〉が制作したのが、アマリアが国際的な名声を獲得するきっかけとなった都市パリにおける公演記録を網羅したこのボックス・セットでした。全５枚のライヴ音源CDと豪華ブックレットで構成され、アマリアとパリの深い結びつきを物語る決定版といえる内容となっています。 実は本作は、発売当初に弊社がサンビーニャ・インポート（PVSI-16002）として一度取り扱った経緯があります。その際は簡易なシールだけを貼付し輸入仕様のままで詳細な日本語解説を付けずに出荷していましたが、〈Valentim de Carvalho〉との直接取引を契機にあらためてライス・レコード盤として再登場するにあたり、今回日本語による丁寧な解説を新たに加えることにしました。ブックレットの膨大な情報や、パリとアマリアを結ぶ物語を読み解きながら作品世界を存分に堪能いただける仕様となっています。 アマリアのパリ初登場は1949年、シャンゼリゼ近くのクラブ〈シェ・カレール〉でした。そして1956年4月、パリ屈指の殿堂オランピア劇場に出演し、観客を熱狂させたことが国際的な飛躍の大きな契機となります。その実況盤『オランピアのアマリア・ロドリゲス』は長らく名盤として知られてきましたが、本ボックスではそのストレイト・リイシューをCD1に収録。さらに貴重なのはそれ以外の未発表音源で、CD2には57年のラジオ録音、64年メゾン・ド・ラ・シミー、65年ボビーノ劇場のライヴを収録。CD3は67年オランピア公演で、名ギターラ奏者ラウール・ネリとフォンテス・ローシャを伴い、アダモの名曲「インシャラー」など当時の幅広いレパートリを披露しています。CD4とCD5には75年のオランピア公演を収録し、カルロス・ゴンサルヴィスとネリによる二挺のギターラを中心とした伴奏で、内面的な深みを増したステージを完全収録しています。 またブックレットには詳細な資料（ポルトガル語）や貴重な写真が多数掲載され、彼女のキャリアを時系列で追うことができます。各CDは未発表写真をあしらったデジパックに収納され、外装も華やか。100ページ近いフルカラーブックレットは厚手の光沢紙を用い、記念碑的な作りとなっています。 アマリアの歌はポルトガル語を理解せずとも心に届く普遍性を持ち、パリの観客はその声に「夜そのものの響き」を聴き取りました。1950年代から70年代にかけての舞台を余すところなく収めた本セットは、ファド史における重要な記録であると同時に、彼女がいかに国境を越えて人々の心を揺さぶったかを伝える生々しい証言でもあります。日本語解説を加えた今回の再発売は、ファンはもちろん、ファドやシャンソンの愛好家、20世紀音楽史を学ぶリスナーにとっても格好の入門／決定版となるでしょう。
●日本語解説／帯付き
＜収録されているディスク＞ CD1 - Olympia 1956 CD2 - Na Radio CD3 - Olympia 1967 CD4 - Olympia 1975 CD5 - Olympia 1975
