アルゼンチン出身の歌手/女優/作曲家/ヴォイス・トレーナー:フロール・ボバディージャ(1987- )と、ピアニスト:ナチョ・アミル。今回ご紹介する2024年作品『避けられない運命(原題:HE DE MORIR DE COSAS ASI)』は、2016年の『Cipsela』に続く、彼らのデュオ名義第2作目となります。 本作でヴォーカルを務めるボバディージャは、アルゼンチン北東部ミシオネス州出身。アルゼンチンの伝統音楽や南米各地の音楽に、ジャズや現代的なアプローチを融合させた、独自のスタイルを持つことで知られます。歌手としては、アルゼンチン出身の実力派歌手でコンテンポラリー・フォルクローレのパイオニア:ロサーナ・アメー(1963-)に師事。洗練性と豊かな表現力を兼ね備えた美しい歌声によって、大きな注目を集めています。また、その表現能力は他分野でも発揮されており、女優としては、映画『The Rotten Link』(2015年)などに出演。現在はヴォイス・トレーナーとして、後進の育成にも携わっています。 一方、ナチョ・アミルは、アルゼンチンの首都:ブエノスアイレスのジャズ・シーンにおいて、2010年代前半より活躍。ニューヨークにおいてジャズ・ピアノを本格的に学ぶと同時に、タンゴとジャズの融合によって独自の世界を打ち出したピアニスト:アドリアン・イアイエスに師事した経験も持ちます。アルゼンチンの伝統音楽とジャズを融合した彼の音楽性は、師であるイアイエスの系譜上にあるとも言えますが、間を活かした抑制的な演奏や、旋律と沈黙のバランスに比重を置くその音楽的感覚は彼独自のもの。ミニマルかつ詩情豊かなピアノ演奏は、深い印象を残します。 そんな2人が手掛けた今回の作品のモチーフは、〈アルゼンチンの都市生活〉。ブエノスアイレスを走る〈39番線バス〉の旅を通じ、街の日常風景、そこに生きる人々の繊細な心の機微を、ゆったりとした静謐なタッチで描き出しています。 サウンド面については、アルゼンチンのフォルクローレを基盤に、ジャズをはじめとしたモダンな音楽要素を融合。ボバディージャの歌声は表情豊かでありつつも、過剰な感情の発露を抑えた理知的なものとなっており、一貫して現代的/都会的なエレガンスが感じ取られます。一方、アミルのピアノも、音数を控え、空間や空白を巧みに活かした、大変にリリカルなもの。作品に込められた物語は、この両者による静かで親密な対話によって進められていきます。 収録は、アルゼンチン・ロックの代表的存在として知られるチャーリー・ガルシアの「No te anims a despegar」、フィト・パエスの「Las cosas tienen movimiento」、さらにタンゴの古典として知られるフアン・カルロス・コビアン作曲の「Los mareados(酔どれたち)」ほか、全8曲。アルゼンチン音楽における様々な時代やジャンルを横断した選曲がなされていますが、これらが彼ら独自の解釈によって再構築され、作品の中で新たな意味を持つような作りとなっています。コンテンポラリー・フォルクローレ・シーンを担う先鋭2人の意欲作、是非ご期待ください。
トラックリスト 1. El Arriero 2. No te Animas a Despegar 3. Tonadas 4. Preciso Aprender a Ser So 5. Los Mareados 6. Detras de Ti 7. Boa Noite 8. Las Cosas Tienen Movimiento
2026年5月31日発売 FLOR BOBADILLA & NACHO AMIL / HE DE MORIR DE COSAS ASI