南アフリカ共和国ヨハネスブルグ郊外の巨大タウンシップ、ソウェット出身のライヴ・バンド、BCUC(Bantu Continua Uhuru Consciousness)。その名は「バントゥーの継続する自由意識」を意味します。2000年代初頭、教会の近くに置かれた輸送コンテナでリハーサルを重ねるところから活動を開始しました。反アパルトヘイト闘争の記憶が色濃く残る土地で育まれた彼らの理念は一貫しています――“Music for the people, by the people, with the people”。音楽は商品ではなく、共同体の呼吸そのものであるという思想です。 BCUCのサウンドは、主流メディアにほとんど紹介されなかった先住的音楽に深く根差しています。焚き火を囲む儀式歌、シビーン(酒場)やタウンシップで歌われる路上歌、教会歌、葬送や祝祭の歌。そこにラップの言葉とロックンロールの衝動を重ね、強烈なポリリズムとトランス的な反復によって独自の音世界を形づくっています。複数の声がコール&レスポンスを繰り返し、打楽器が身体を直接揺さぶるその様式は、観客を傍観者ではなく参加者へと変えていきます。彼らにとって伝統とは保存物ではなく、現在進行形の“儀式”なのです。 現在の編成は7人。フロントに立つJovi(lead vocals, percussion)の祈りにも似たリード・ヴォーカルを軸に、Kgomotso(backing vocals, percussion)、Hloni(raps, ad libs, percussion)、Luja(raps, backing vocals, marching drum)が声と言葉を重ねる多層的なヴォーカル構造を形成。Cheex(congas)とSkhumbuzo(bass drum)が打楽器の中核を担い、重心の低いポリリズムを生み出します。さらに現在はMosebetsi(session bass guitarist)が低域を補強。ドラムセットに依存せず、複数の打楽器と声の反復によってグルーヴを立ち上げる編成は、トランス的高揚と身体的推進力を同時に生み出すBCUC独自のサウンドを支えています。 2015年の『Our Truth』で国際的な注目を浴び、続く『Emakhosini』(2018)、『The Healing』(2019)では長尺曲を中心に、祖霊信仰や共同体の癒しをテーマに深化。ヨーロッパ各地でのツアーを重ね、グラストンベリー(West Holts)、ロスキレ、Afropunk Brooklyn、WOMAD、Sziget、Fusionなど主要フェスに出演しました。2023年には〈WOMEX〉アーティスト・アワードを受賞。Gilles Petersonから「間違いなく最高のライヴ・アクト」と評されるなど、世界的評価を確立しています。2026年春にはロンドンのバービカン公演も予定され、UKでの存在感もさらに高まっています。 そして本作は通算5作目にしてドイツの人気レーベル〈Outhere Records〉移籍第一弾。タイトルが示すのは、ソウェットの人々が歩んできた“容易ではない道”。ヨハネスブルグ(エゴリ=黄金の都)の金鉱労働に端を発する歴史、アパルトヘイト終結後もなお残る格差と失業、暴力。自由は宣言されたが、恩恵は均等ではなかった――その現実を直視します。 全10曲はすべて新曲。録音はミュンヘンの第二次大戦期の防空壕を改装したスタジオで行われ、ほぼ一発録り。全員が同じ空間で演奏し、楽曲が自然に形を成す瞬間を捉えました。即興性を核としながらも、構造は明確で、ライヴさながらの緊張と爆発力が刻まれています。「Amakhandela」では鎖を断ち切れと叫び、「Umdumakhanda」では夢と現実の狭間で揺れる心を描写。ラストの「Matla a rona ke Bophelo(我らの力は生命)」では祖霊への感謝と生命賛歌が静かに広がります。 革命的でありながら慈しみに満ちた音楽。怒りと祈り、抵抗と癒しを同時に抱え込むBCUCのサウンドは、分断の時代に人々が集う焚き火のような存在です。ソウェットの精神的地下水脈を掘り当てる、アフロ・サイケデリックの現在形がここにあります。
●日本語解説/帯付き
トラックリスト 1. Higher Vibes 2. Umdumakhanda 3. Amakhandela 4. Magwala 5. Afropsychedelic 6. Sibitsa sa mmino 7. Music 8. Sebenzela 9. Awuthule 10. Matla a rona ke bophelo