米国の名門レーベル：スミソニアン・フォークウェイズが所蔵する〈UNESCO Collection of Traditional Music〉は、世界70ヶ国以上で採集された民俗音楽のコレクション。シリーズ全127枚のアルバムから成りますが、アフリカ、アジア、オーストラリアおよびオセアニア、ヨーロッパ、北米、南米といったテーマの中でさらに細分化され、普段は耳にすることができない少数民族の歌声や、神秘的な器楽演奏などが数多収録されています。音源は1970年代から80年代にフィールド・レコーディングされたものが中心となりますが、いずれも資料価値が高い上に音質も大変に優れたものばかり。それらをより多くの人々にお楽しみいただくため、2024年５月より〈UNESCO Collection of Traditional Music〉のカタログから特に優れたものを厳選し、シリーズとして順次ご紹介させていただいております。第一弾『ピグミー〜アカ族の神秘の歌声』（サンビーニャ・インポート FLSI-31018）から始まった同シリーズ。今回その第24弾としてご紹介するのは『マダガスカル〜タマタブ地方の精霊音楽』です。 1897年から1960年までのフランス植民地時代を除き、マダガスカルの人々は自由かつ独自の生活を営んできました。そんな同国では祖先崇拝が深く浸透。音楽によってトランス状態に導く〈トロンバ（憑依儀式）〉を介して古代の王族を降霊し、問題の解決や病気の治癒、そして外国からの侵略と貧困による世界の崩壊の阻止を祈ります。 本作の舞台となるのは、美しい海と豊潤な緑に囲まれたマダガスカル島東部の港町：タマタブ（トゥアマシナとも呼ばれる）。同地に暮らすベツィミサラカ族が、トロンバにおいて主に使用している楽器は、植民地時代に西洋から持ち込まれたアコーディオンと、マダガスカルの伝統撥弦楽器：ヴァリハ、そして竹筒に種子を詰めたシェーカー：カイアンバ。前述のヴァリハとは、竹筒の周りに弦を張った撥弦楽器で、両手で縦に抱え、両手の指で爪弾くのがその演奏法となりますが、ツィターに類似した大変に美しい音色を持ちます。カイアンバは振ったり叩いたりといった演奏法となりますが、これによって生み出される豊かなテクスチャーが、全ての演奏の要となります。 本作ではそんなタマタブ地方に暮らすベツィミサラカ族や、アンタンドロイ族の器楽演奏などを紹介。ベツィミサラカ族のトロンバにおけるアコーディオン、ヴァリハ、カヤンバの美しくもヒプノティックな演奏は、トランシーであると同時にヒーリング効果もあり、大変に心地よいものとなっています。また、マダガスカルらしい長調と全音階がベースとなる開放的で晴れやかな響きも大変に魅力的。この他、フランスからの音楽的影響が反映されたアコーディオンによるワルツ・ナンバーなども収録されています。メキシコ周辺の音楽がお好きな方にも、どこか親和性のあるサウンドだと言えるでしょう。また、アンタンドロイ族のトラックでは、ア・カペラによる迫力満点の合唱や、美しいマンドリニー（マンドリン）などの演奏を聴くことができます。なお、CD-R中に収められたPDF形式のライナーノーツには、タマタブ地方の歴史文化解説と各トラックの超詳細な説明を掲載。是非ご期待ください。
