世界で最も影響力のあるアフリカ系アメリカ人女性ゴスペル歌手、〈ゴスペルの女王〉ことマヘリア・ジャクソン（1911-72）は、ルイジアナ州ニューオーリンズ出身の貧困家庭に誕生。５歳で母を亡くした彼女は叔母の元に預けられることとなりますが、その後12年間にわたり無視され、暴力を受け続けるなど、人生の幕開けは非常に過酷なものとなりました。しかし、かけがえのない崇高な歌声という天賦の才に恵まれた彼女は、ブラジャーの中に100ドル札を挟んで出奔。次に故郷に帰ってきた時には、スターダムにのしあがった〈ゴスペルの女王〉として、ラベンダー色に輝くキャデラックに乗り、胸の谷間に1万5000ドルを挟んだ姿で現れたという話が残されています。 また、マヘリアは社会運動家としても活躍。1960年代の公民権運動ではキング牧師と共に行動し、歌によって大きく貢献。そのパワフルで美しい歌声は、多くの人々の心を震わせ、奮い立たせ、涙させました。また同時期、ニューポート・ジャズ・フェスティバルやケネディ大統領の就任式でも歌唱。1969年のハーレム・カルチュラル・フェスティヴァルでは、彼女を信奉するメイヴィス・ステイプルズ（1939- ）との素晴らしい共演も披露しました。社会活動家としても多くの人々から支持されていた国民的歌手／俳優のハリー・ベラフォンテ（1927-2023）も、マヘリアを「米国で最も強力な黒人女性」と讃えるなど、彼女に対する称賛の声は高まる一方。日本でも浅川マキや吉田美奈子などといった実力派の女性歌手たちが、マヘリアの歌声に大きな感銘を受けています。しかし成功の高みに昇りつめた1972年、多くの人々に惜しまれつつ、糖尿病に因る心臓麻痺（心不全）のため、マヘリアは国民的英雄として60歳でこの世を去りました。 しかしゴスペルの女王として多くの人々からの尊敬／敬愛を集めていた一方で、私生活における彼女は冷酷で虚栄心が強く、口汚く強欲で傲慢な女性であったということも有名。友人を見捨て、忠実な仕事仲間を解雇し、たびたび癇癪を起こしては、支えてくれる人々を使い捨てのティッシュのように扱うことで生き延びてきたという話も非常によく知られるところです。〈歌う時だけ完全で、本物で、神より許された存在に見えた〉と、彼女の身近にいた人々が語るように、困難な社会背景の中で彼女が駆け抜けた道のりと、女王としての成功、さらにその強烈な人間性によって織りなされた複雑な人生ドラマは、ジャズ界のディーヴァ／社会運動家として知られるニーナ・シモン同様、今も多くの人々より深い関心が寄せられています。 本作は、マヘリアをゴスペルの女王として、そして一人の人間として、多面的な角度から捉えたジュールス・シュヴェリン著作の伝記『The Life I Sing About: Mahalia Jackson, Talking and Singing the Gospel』（1992年：オックスフォード大学出版局）を補完する作品として、1995年にスミソニアン・フォークウェイズよりリリースされました。「He’s Got the Whole World in His Hands」（� 砲筺�I Sing Because My Soul Is Happy」 （�キА砲覆匹鬚呂犬瓩箸靴織灰鵐機璽箸任竜�重なパフォーマンス音源や、自身の幼少期、そして音楽との関わりについて回想した1950年代のインタビュー音源などで構成されているため、〈聴く伝記〉として、彼女の生涯をコンパクトに振り返ることが出来ます。ゴスペル／ソウル・ファンの方は是非、ご期待ください！
トラックリスト 1. He’s Got the Whole World in His Hands 2. Recollections of Early Childhood 3. Joshua Fit the Battle of Jerico 4. Recollections of New Orleans Music 5. I Sing Because My Soul Is Happy (1) 6. Recollections of New Orleans Violence and Role of Church 7. I Sing Because My Soul Is Happy (2) 8. Recollections of Influences on Her Music 9. The Lord's Prayer
2025年11月16日発売 MAHALIA JACKSON / I SING BECAUSE I'M HAPPY
