フランス共和国パリを拠点に活動している女性SSW:ヴァキア・スタヴルは、東地中海の島国:キプロス共和国出身。元来同国はギリシャ系住民とトルコ系住民の混住する複合民族国家でしたが、1974年、南北に分断されて以降は、事実上ギリシャ系によるほぼ単一民族国家となり、現在の公用語はギリシャ語となっています。そんな複雑な歴史を持つ同地の伝統音楽をモダナイズさせ、現代に蘇らせるということをコンセプトとするトリオ・グループ:ムシュー・ドゥマニが2022年に来日を果たしたことはまだ記憶に新しいところですが、彼らの活躍によって、同国の音楽文化に対する日本のワールド・ミュージック・ファンの興味と理解が進んだことは喜ばしいことだと言えるでしょう。 そんなキプロスで生まれ育ったヴァキアは、チェコの名門:プラハ音楽院で学んだのち、パリでジャズ・ヴォーカルも学び、その後は音楽業界でのキャリアを追求。ギリシャの伝統にジャズやシャンソンの要素を織り交ぜた独自の音楽性を確立し、ヨーロッパ全土で活動を行うようになりました。そしてギリシャのソニー・ミュージックと契約し、2003年に“O.H.E.”でアルバム・デビュー。メディアからは『聴衆を瞬く間に感動させるほどの、息を呑むような美しい声』、『非常に洗練された魅惑的なアーティスト』と絶賛されました。また、ポルトガル語によるオリジナル・ナンバー‘SOZINHA’は、同アルバムのリリース直後にギリシャで大ヒットを記録し、ヨーロッパやラテン・アメリカにも波及。 多言語による作詞/歌唱能力や、作曲家としての高いセンスも大きな注目を浴びています。 その後もアルバム制作のみならず、パリ、カサブランカ、ドルトムント、バルセロナ、リスボン、モスクワ、ミュンヘンなど、ヨーロッパを中心とした重要音楽祭に出演。2016年には国連からの招待を受け、スイスのジュネーブで行われたガラ・コンサートにおいて、モロッコ交響楽団との共演も果たしています。その翌年にはフランスの人気ワールド・ミュージック・レーベル:Accords Croissよりアルバム『アラシア』(サンビーニャ・インポート HMSI-23202)をリリース。キプロスの古い呼び名をタイトルに冠した同作品では、ギリシャ語のほか、ポルトガル語、英語など多言語による歌唱を披露し、こちらも大きな話題となりました。ゲストとしてブラジル出身のカルロス・ベルナルドがギターとアレンジを担当しているほか、キューバ出身のイノル・ソトロンゴがパーカッションを担当し。紙やポリバケツを使った打楽器、無数の鍵を吊して作ったウィンド・チャイムなどを導入するなどといったユニークな個性も、同作の大きな魅力の一つとなっています。 そして今回ご紹介する彼女の最新作『ヴァキア』は、なんとオーヴァーダブ一切なしのスタジオ・ライヴ録音作品。彼女のエモーショナルな歌声を引き立たせるため、伴奏もほぼ一台のクラシック・ギターのみと、ミニマムを極めました。ギターはソクラティス・レプトスが担当。また、ウード奏者のヤニス・コウティスが2曲で参加しています。 ヴァキアの筆によるオリジナル・ナンバーが5曲、その他、タキシード・ムーンのフロントマンとしてお馴染みのソングライター兼パフォーマンス・アーティスト:ウィンストン・トンの代表曲‘In A Manner Of Speaking’(1985年)のカヴァーを筆頭に、国内外のソングライターによる彼女のお気に入りのナンバー6曲の計12曲を収録。欧州的な哀愁感漂う楽曲群と、ヴァキアによる表現力豊かな劇場型ヴォーカルのコンビネーションは、ギリシャ音楽ファンの方はもとより、アマリア・ロドリゲスをはじめとする女性ファド歌手のファンの方の心も掴むこと間違いなしです。是非、お楽しみに。
日本語解説/帯付き
トラックリスト 1. Alfonsina Y El Mar 2. Dakri Filakto 3. In A Manner Of Speaking 4. Thalassino Nero 5. Esperanza 6. Pou Den Se Niazi 7. Cucurucucu Paloma 8. Mechita 9. Maramena Ta Yioulia 10. Sozinha 11. Ange Ou Diable