ザディコ音楽の中心地の一つとして知られるルイジアナ州セント・ランドリー教区オペルーサス出身のアコーディオン奏者/歌手:クリフトン・シェニエ(1925-87)。第一言語としてルイジアナ・クレオール語(フランス語をベースとしたクレオール語)を使用する彼は、伝統的なフレンチ・クレオール音楽の要素とニューオーリンズR&B、テキサス・ブルース、ビッグバンド・ジャズ、ロックンロール、そしてケイジャンの要素を融合した音楽スタイル〈ザディコ〉の先駆者として知られています。アコーディオン奏者として地元のダンス・ホールやバーで活躍していた父親から演奏の基礎を学び、ローティーンの頃よりラブボード(ウォッシュボード)奏者:兄のクリーブランド・シェニエとコンビを結成。地元でのパフォーマンスを開始しました。 シェニエは身体の成長と共に、使用楽器を小さなダイアトニック・アコーディオンからピアノ・アコーディオンへと移行していき、さらにバンド・メンバーにエレクトリック・ギター、ベース、ドラムズ、サックスも追加。ヒューストンとニューオーリンズの間に位置する大規模なクラブ、ダンス・ホール、ジューク・ジョイントで演奏するようになりました。そんな中、伝統的なフレンチ・クレオール音楽の要素とR&Bの要素を組み合わせた独自の音楽スタイルを開発。1942年にはクラレンス・ガーロウ楽団に参加、1954年には黒人音楽のレコーディングのパイオニア:J・R・フルブライトの目にとまり、エルコ・レーベルより最初期のザディコ・ナンバー「ルイジアナ・ストンプ」と「クリフトンズ・ブルース」の2曲をリリースします。そして55年、スペシャルティ・レコードと契約。最初のリリースとなった’Ay-Tete Fi (Hey Little Girl:プロフェッサー・ロングヘアのカヴァー)’は合衆国南部全土でヒットを記録しました。この成功によって、以降はレイ・チャールズ、エッタ・ジェームス、ローウェル・フルスンなどの人気R&Bパフォーマーたちとツアーを共にするようになります。 ツアー、レコーディングと活躍する中、1963年にアーフリー・レコード社長:クリス・ストラクウィッツと邂逅。契約後間も無くして、シェニエはアーフーリーの看板アーティストとして全国的な人気/評価を得るようになりました。1966年バークレー・ブルース・フェスティヴァル出演時には熱量の高いステージ・パフォーマンスにも大きな注目が集まり、サンフランシスコ・クロニクル紙のジャズ評論家:ラルフ・J・グリーソンは「私がこれまでに聴いた中で最も驚くべきミュージシャンの一人」と大絶賛。その後、ブルース・ロック界を代表するアイルランド人ギタリスト:ロリー・ギャラガー(1948-95)がシェニエに対する敬意を示すために「ザ・キング・オブ・ザディコ」というナンバーを書き、偉大なるアメリカン・ソングライター:ポール・サイモン(1941- )は、1986年のアルバム『グレースランド』収録曲「ザット・ワズ・ユア・マザー」の歌詞中でシェニエについて言及。彼を〈バイユーの王様〉と称えました。 そんなシェニエによる1975年リリースの本作は、1979年版『ローリングストーン・レコード・ガイド』(後に『ローリングストーン・アルバム・ガイド』に改名)において五つ星を獲得。〈必携アルバム〉と評されました。さらに2016年には米国議会図書館も、本作を〈文化的、歴史的、そして芸術的に重要な作品〉と評価し、国立録音登録簿への保存対象に選定した超名盤です。レッド・ホット・ルイジアナ・バンドと共にルイジアナ州ブガルーサでレコーディングした本作は、なんとその多くのトラックが一発録り。心躍るシャッフルや伝統的なツーステップの楽しさ、味わい深いワルツ、そして痛快なロックンロールと、ザディコの醍醐味がたっぷりとつまった一枚へと完成されています。北米ルーツ・ミュージック・ファンの方はお聴き逃しなく!!!
●日本語解説/帯付き
トラックリスト 1. One Step At A Time 2. They Call Me Crazy 3. There's Something On My Mind 4. Ride' Em Cowboy 5. My Mama Told Me 6. I Woke Up This Morning 7. I May Be Wrong 8. Take Off Your Dress 9. Let's Go To Grand Coteau 10. I'm A Farmer 11. Ti Na Na 12. Come Go Along With Me 13. Bogalusa Boogie