タイトルに冠された〈ザ・ワールド・ミュージック・チャーツ・ヨーロッパ(以下略称:WMCE)〉とは、ヨーロッパ25ヶ国において〈最も再生回数が多かったワールド・ミュージック・ナンバー〉を毎月上位20位までランク付けし発表しているチャート・リストのことです。同組織は1991年に発足され、今年で活動32年目。ワールド・ミュージック・シーンに対するWMCEの貢献は、あの世界最大のワールド・ミュージックの見本市〈WOMEX〉に並び称され、最も成功したワールド・ミュージック機関として年間賞も連続受賞するなど、ますます評価を上げています。
そんなザ・ワールド・ミュージック・チャーツ・ヨーロッパが発足30周年を記念し、2021年にリリースしたのがこの2枚組作品。2019年から2020年にかけてチャートを沸かせた全30曲を収録しています。アーティストたちの出身国もアフリカ、ラテン・アメリカ、カリブ、バルカン、中東、スカンディナヴィア、そして東・南ヨーロッパと様々なので、手早く、そして出来るだけ数多くの異文化音楽に触れてみたいという方には最適。今も現役で活動しているアーティストばかりなので、サンプラーとしてまずはお聴きいただき、お気に入りのアーティストやナンバーが見つかれば、その後深掘りされてみるというのもいいかもしれません。
冒頭はポルトガルの音楽家の家系に生まれ、15歳よりオペラの歌唱を学び始めた女性ファド歌手:リナと、〈欧州でもっとも革新的なプロデューサー〉との呼び声も高いスペイン人音楽家:レフリーのスペシャル・ユニットによる人気ナンバー‘Cuidei Que Tinha Morrido’(2020)。こちらはファドの名曲をアナログ・シンセサイザーやエレピなどを中心とした楽器編成で演奏し、そこにリナの本格的なファドの歌声を載せた斬新なナンバーで、これまでのファドの常識を覆すようなオリジナリティ溢れるアレンジに大きな注目が集まりました。2組目は現在のギリシャ大衆音楽のルーツとも言われている〈レンベーティカ〉に独自の解釈とアレンジメントを施し、レンベーティカの伝統継承/刷新を目指している音楽グループ:トリオ・テッケのナンバー。この他にもボスニア・ヘルツェゴビナの大衆音楽〈セヴダ〉の魅力を世界の聴衆に伝える〈セヴダの王様〉ことダミール・イマモヴィッチや、サハラ砂漠の音楽ならではの乾いたサウンドにテクノロジーのスパイスを加味し、独自の音楽性を構築することに成功した西サハラ出身の女性歌手:アシサ・ブライム、ハイチとニュー・オーリンズの文化的繋がりを音楽を通じて実証したハイチの大所帯グループ:ラクー・ミジク、ギネア人女性歌手:ナカニ・カンテがコナクリとバルセロナ双方の音楽家を招集し作り上げた極上のアフロ・ポップなど、とにかく盛りだくさん。もちろんのことながら、高評価を得た曲/人気曲が網羅されているだけに不満感も残りません。タミクレストやカルメン・ソウザなどのビッグ・ネームも散見されますが、日本国内ではまだ紹介されていないアーティストも多数収録されていますので、ちょっとした発掘/発見の喜びもあり、ワールド・ミュージック通の方にも十分お楽しみいただくことができます。ワールド入門者の方もマニアの方も、是非チェックされてみてください!