ドイツが誇るワールド・ミュージック・レーベル“Glitterbeat”が定期的に発表してきた“Hidden Music シリーズ”。これまでティナリウェンの作品などを手掛けてきた音楽プロデューサーのイアン・ブレナンが、世界の辺境を旅して収録してきた貴重なフィールド録音をまとめた同シリーズの11作目が登場しました。今回は南部アフリカに位置する国ボツワナに残るター(Taa)と呼ばれる、絶滅が危惧されている言語で歌われた音楽を紹介します。
ボツワナは南を南アフリカ共和国、西と北をナミビア、東をジンバブウェ、そして北をザンビアに囲まれた内陸国。1966年にイギリスから独立した同国は自然資源の豊富な国として知られていて、なかでもダイヤモンド産業は国の主要な経済の柱となっています。その一方で同国には広大なサバンナや砂漠地帯が広がっており、野生動物保護区や国立公園など自然の豊かさもその大きな特徴となっています。そんなボツワナの公用語は英語ですが、それは人々の暮らしの中ではほとんど使用されておらず、日常的にはツワナ語(78.2%)、ショナ系のカランガ語 (7.9%)などが主に使われています。その中でわずか約2,500人の話者しかいないのが本作のテーマとなっているター語(別名コン語)で、ボツワナ北西部とナミビアの一部でのみで話されているというこの言語は、なんと112という世界で最も多くの音を持つ言語として知られているも、残念なことに絶滅の危機に瀕しています。
ここで聴けるのは、そのター語による宗教的な賛歌や祭詞などの歌、そしてラップの類で、手拍子/プラスティックの空き缶/ホイッスル/親指ピアノなどがその伴奏を務めています。演唱するのは20代の若者から80代の老人たちで、中には盲目の年配シャーマン(呪術師)もいます。基本は伝統曲ですが、時には欧米風のラップを聴かせる若者も登場するなど、この辺境の地にも確実にグローバル化の波が押し寄せていることを窺い知ることができます。
もちろん録音はこれまでの“Hidden Music シリーズ”と同様全篇フィールド・レコーディングで、現地の生々しい息吹がそのまま伝わってくる仕上がりとなっています。もちろん日本語による解説をお付けし、この知られざる音楽をできる限り分かり易くご紹介いたします。
ワールド・ミュージック・ファン、アフリカ音楽ファン、そして民俗音楽ファンにお勧めしたい1枚です。
●日本語解説/帯付き
トラックリスト
1. Trance Induction Song
2. I Am Lost (The Spirits Guide Me Home)
3. Chase the Evil Spirits Away
4. Protection from the Bees
5. The Bushmen Are Starving (We’ve Been Made Poor by the Rich)
6. We Must Give Thanks
7. The Spirit Travels at Night
8. We Have Been Abandoned by the World
9. Kudu (“Tortoise”) Dance
10. Prayer for Food (Miracle Manifestation)
11. Our Ancestors Sh ow the Way
12. Calling Our Loved Ones Back from the Dead
13. My Culture is the Most Beautiful
14. We Are the People of Love
15. This Is the Land Where I Come From
16. Preparation to Heal
2023年6月18日発売
V.A. / TAA! - OUR LANGUAGE MAY BE DYING, BUT OUR VOICES REMAIN (BOTSWANA)