本作のタイトルに冠された〈ブロードサイド誌(BROADSIDE)〉は、フォーク・リヴァイヴァル/プロテスト・ソング・ブームが興隆を極めた1962年、シス・カニンガムと彼女の夫:ゴードン・フリーセンによって発行されたアンダーグラウンドなフォーク・ソング雑誌でした。同誌はフォーク・リヴァイヴァル・ブームに多大な影響を与え、しばしば物議を醸したことでも有名です。紙面ではフォークやプロテストをめぐる活発な言及/討論が展開。その過激さ故、当時使用していた謄写版印刷機(ガリ版)はアメリカ労働党によって廃棄されてしまい、結果、手書きの楽譜、タイプライターによるテキスト、手書きのイラストやコピーされた新聞記事が混在するユニークなレイアウトが誕生しています。また、同雑誌には当時のフォーク・シーンの重要人物が数多く関わり、併せてレコード・レーベルも運営。エリック・アンダースンをはじめとする重要な若手歌手たちを育成し、世に送り出したことでも知られています。
本作はそのブロードサイドの音源を集大成化したボックス・セット。当時発売されたオリジナル盤再発は、現在全てCD-R化されてしまったため、CD仕様のこちらは極めて貴重だと言えます。収録は〈プロテスト・ソングの父〉ことピート・シーガー、60年代を代表するプロテスト・シンガー:フィル・オークス、社会運動家としても知られるジャズ・ディーヴァ:ニーナ・シモンを筆頭に、TBS系TVドラマ『岸部のアルバム』(1977年)の主題歌に「ウィル・ユー・ダンス」が起用されたことでも当時話題を呼んだジャニス・イアン、ハリー・スミスとの絡みでもお馴染みのファッグス、リアノン・デギンズがカヴァーしたことで再注目されたリチャード・ファリーニャのナンバーなど、商業化されなかった超貴重ナンバーも含むCD5枚組全89曲を収録。中でも目玉だと言えるのは、〈ブラインド・ボーイ・グラント〉の変名でクレジットされた若き日のボブ・ディランの歌声。プロテスト・ソング時代の隠れた名作’Ballad of Donald White’など、他では聴けないテイクをたっぷりと収録しています。また、当時の誌面のグラフィックスを掲載した170ページほどの分厚いブックレット(A4サイズ:バインダー方式)も同梱。各ミュージシャンのバイオ/ディスコ・グラフィーや、クレジット詳細、収録曲にまつわる裏話などもたっぷりと語られており、読み応え見応え共に十分。アメリカン・フォーク/プロテスト・ソングの大ブームからその後26年間までの歴史の流れを鮮やかに追うことができる、音楽ファン必携の大作です!!!