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説明

混乱の時代にこそ響く“祈りのMPB”。
イアン・ラセールが描く、アメリカ大陸のいま!

　ブラジル北東部バイーア州サルヴァドールを拠点に活動するシンガー・ソングライター、イアン・ラセール（Ian Lasserre）。アクースティック・ギターの繊細な響きと親密な歌声を軸に、MPB、アフロ・ブラジルのリズム、北東部のサンバやフレーヴォ、ミナス派の和声感覚までも緩やかに取り込みながら、静謐でありつつ深い陰影を宿した独自の音楽世界を築いてきました。2017年のデビュー作『Sonoridade Plvora』で頭角を現し、続くセカンド作『timo（Trice）』では“瞬間の像”を音楽に翻訳するという独創的なコンセプトに挑戦。写真のように切り取られる一瞬を音で可視化する試みは高く評価され、アフロ・ブラジル音楽とポップ・ミュージックの境界を探るサウンド・リサーチはさらに深化しました。レーベル〈ajabu!〉との継続的な協働を通じ、イアンは“サルヴァドール発の静謐な詩人シンガー”として国際的な評価を獲得し、現代ブラジリアン・フォーク／MPBを象徴する存在として成長しています。
　本作『アメリカ・ズレータ（America Zureta）』は、レーベル〈ajabu!〉からリリースされる最新作で、プロデュースは前作に引き続きセバスチャン・ノチーニ（Sebastian Notini）。録音は2024年にサルヴァドールで行われました。イアン自身が“もっとも個人的でありながら、もっとも外の世界に向けた作品”と語る通り、アマゾン森林破壊、気候変動、資源搾取、そしてレイト・キャピタリズム（末期資本主義）がもたらす歪みといった現代的テーマに真正面から向き合い、人間と自然の断たれつつある関係を静かに問い直すアルバムです。
　タイトル曲「America Zureta」では、先住民が守り続けてきた森との精神的つながりに目を向けつつ、急速に失われていく自然環境への危機感を詩的に表現。イアンは「私たちが共有してきた“地球との関係”を思い出すための歌」と語り、リフレインは祈りのような“記憶のマントラ”として響きます。2024年にブラジルで実際に観測された森林破壊の深刻なデータも、本作の創作の大きな背景となりました。
　音楽的には、アクースティック主体の編成にアフロ・ブラジルのパーカッション、サックス、ベース、ギターを控えめに重ね、余白を生かした気品あるアレンジが魅力です。「Orla de Sal」や「Asas pro Paraso」は、静かな情景描写と高揚感が交差するハイライトで、北東部特有のリズムがイアンの声と自然に調和しています。一方歌詞は個人的で詩的でありながら、環境や社会への鋭いまなざしが貫かれています。大地、海、風、雨といった自然の要素は人間の感情世界と寄り添い、アルバム全体を通して“自然との再接続”というテーマを豊かに描き出しています。荒廃する現実を背景にしつつも、どこか希望の光が差し込むようなメロディの温かさが作品を包み込みます。
　ブラジルの伝統と現代的な感性を融合しながら、地球規模の現実を繊細に描いたイアン・ラセールの最新作。環境と人間の未来に向けた静かな抗議と、深い詩情を湛えた魅力的なアルバムです。

トラックリスト
1. America Zureta
2. Isca De Galaxia
3. Clarearme
4. Mandacaru Morreu
5. Orla De Sal
6. Submergindo

IAN LASSERRE / AMERICA ZURETA