6月30日(木)

 ブラジルにレヴィヴェンドという復刻専門の会社があるのは、ファンの人ならご存知だろう。そのレヴィヴェンドから、大作曲家アリ・バローゾの作品ばかりを集めた3枚組2セットのボックスが出ていることは、ずいぶん前から知っていたが、それをやっと聞くことができた。聞きながら、やっぱりアリ・バローゾこそが、ブラジルが生んだ最高の作曲家だと確信するようになった。
 アメリカのミンストレル・ショウに当たる舞台芸能チアトロ・ダ・レヴィスタの時代から作曲活動をスタート。30年代にはカルメン・ミランダなど当時の人気歌手たちにたくさんの作品を提供し、さらに「ブラジルの水彩画(アクァレーラ・ド・ブラジル)」では世界で一世を風靡した。そんなアリ・バローゾは、ノエール・ローザなどに比べるとコマーシャルな世界の人というイメージを持たれていたようだが、最近ではセルジオ・カブラールが伝記本を書くなど、再評価の兆しが見えている。実際、その音楽を聞けば、バローゾのすばらしさは圧倒的だ。30年代のあらゆる作曲家たちと共作を残したほどの幅広い音楽性と、<サンバ・ジョンボ>におけるモダンでポップな感覚は、どちらかというと詩人だったノエールの比ではない。
 バローゾのそんな6枚組を聞きながら、どうしたらこの人の偉大さを日本人にもわかるようにお伝えできるかと考えはじめてしまった。何か良い編集アルバムのアイディアが浮かんだら、近いうちにライスから発売されることになるかもしれない。

 

6月29日(水)

 今月中に書かないといけない原稿は昨日でいちおう終了。と思ったら、もう月末。経理仕事の時期になってしまった。もうずいぶん休みを取っていない気がするが、この仕事が終わるまではそれどころではない。

 先にリリースしたロベルタ・サーの『ブラゼイロ』(ライス MPR-575)は思った以上に好調で、今週もたくさん追加注文をいただいたようだ。ブラジル音楽で新人歌手がこれだけ注目されるのは、本当に久しぶり。これは嬉しいニュースだ。
 きっとみんな新しい歌手の出現を心待ちにしていたということだと思う。そんな気持ちもわからないではない。というのも、ブラジルでは最近、新人歌手がほとんど登場しないからだ。
 思い出してみたところ、少なくともメジャー・レーベルからは、今年になって新人歌手がまだ一人もデビューしていない。最近のメジャー会社は、従来の人気歌手たちの新作を出すのが精一杯。というか、それ以上のリスクはおかしたくないようにも見えるほどだ。おまけにマリア・ベターニアがビスコイト・フィノ、ガル・コスタがトラーマに移籍するなど、たのみの綱のベテラン人気歌手たちも次々とメジャーを離れてしまっている。これではそのうち発売するレコードがなくなってしまうだろう。
 ロベルタ・サーはインディのMP、Bからのデビュー(配給はユニヴァーサル)。結局、期待できるのはインディ会社だけということになりそうだ。まあ、それも仕方がない。とにかく彼女クラスの新人歌手がどんどん登場して、シーンを一変させてもらいたいものだ。

 

6月28日(火)

 今日も終日、自宅で解説原稿の執筆。書いた原稿が全部アフリカ音楽のアルバム解説だったので、アタマがすっかりアフリカになってしまった。

 そんな夜に聞いたのもアフリカ音楽。Dさんから送られてきたナイジェリアの最新音源とレア復刻音源を混ぜ合わせた編集CDRで、一緒に送っていただいた他の2枚のCDRも含めて、晩御飯を食べながらゆっくり聞かせてもらった。しばらく新しいニュースがなかったかに見えたナイジェリア音楽だが、ここにきて新しい動きがあったらしい。ぼくなんか名前も聞いたことのない音楽家たちが、若々しくもユニークな音楽を楽しませてくれている。もう少しCDRを聞き込んで、もし機会があったら、日本でも紹介できたらと思う。

 この日記を読んでくださっているという女性から励ましのメールをいただいた。もちろん内容までは紹介できないが、熱心なファンの方の声は本当に励みになります。どうもありがとうございました。

 

6月27日(月)

 終日、自宅で解説原稿を執筆。2本書き上げた後、明日書く原稿の準備も進めた。もうクタクタ。他のことをするどころか、日記を書く余裕もありません。

 

6月26日(日)

 これまで当社で発売してきた復刻シリーズの一部をブラジルのエンリッキ・カゼスに送ったのが帰国直後。それが無事に届いたようだ。エンリッキがとりあえず聞いたのが『サンビスタス・ジ・ボッサ』(ライス BSR-519)なのだそうで、これがすばらしい選曲だとメールに書いてきた。
 ずいぶん前に作った編集盤で、ぼく自身も内容を忘れかけていたが、たしかにブラジル人が聞いたらあのアルバムは面白いかもしれない。リオのサンバの粋を表現する言葉が<ボッサ>であり、あのアルバムではそんな<ボッサ>感覚がサンバの中でどう育ってきたかを言及したわけだが、こんな意図で作られた編集盤なんて、ブラジルにも存在しない。ましてや、そんな<ボッサ>感覚が<ボサ・ノーヴァ(新しいボッサという意味)>に繋がったなんて、普通の人はまったく考えていない。
 ぼくは<ボサ・ノーヴァ>をサンバの歴史の一断面と考えていて、だから別ジャンルだと思っていない。ノエール・ローザもカルトーラもジョビンもまったく同じ地平線上にある音楽であって、カルトーラが<ホンモノのサンビスタ>なら、ジョビンだって同様だ、なんてことを、以前からブラジルでもしっちゅう言ってきた。でも、そんな話は、普通のサンバ好きには通用しない。サンバというのは黒人音楽であって、<ホンモノのサンビスタ>とは貧しい階層の黒人社会から出てきた人、という概念が、最近になってますます強くなってきたようだ。反対に、カルメン・ミランダやノエール・ローザやシロ・モンテイロのような白人たちがサンバの発展にどれほど貢献したかなんてことは、すっかり忘れられてしまっている。
 そんないまのブラジルでこそ、『サンビスタス・ジ・ボッサ』は発売されるべきアルバムなのかもしれない。せっかくエンリッキも気に入ってくれているようだし、彼に頼んで今度どこかのレコード会社に売り込んでもらうことにしてみよう。

 そういえば、評論家の駒形四郎という人が日本でサンバの本を作るといって、ぼくにインタビューしに来たのが、5月の連休のこと。あれから2ヶ月近くもたつのに、インタビューおこしの原稿どころか、何の連絡もこないのでアキレてしまっている。そこで思い出したのが、そういえば彼が作るというサンバの本でも、主体はあくまでエスコーラ系のサンバであって、ボサ・ノーヴァはおろか、ノエール・ローザも取り上げる予定がないと言っていたことだ。このままじゃロクな本にならないと思ったぼくは、いろいろ話をしたのだが、その意味をわかってくれただろうか。2ヶ月もなんの進展もないということは、あまり期待しないほうが良いのかもしれない。
 まあ、他人のやることに期待しても仕方がない。ここはひとつ、自分自身でサンバの決定版的な編集アルバムでも作るしかないのだろう。この夏の間にでもアイディアを練って、秋あたりに作ってみることにするか。

 

6月25日(土)

 土曜だけど、とても休んでいられない。今日も朝からひたすら原稿書きと調べ物。解説原稿というのは、通常はさほど分量が多いわけではないので、書くことが決まってしまったらさほど時間はかからない。でも、アルバムによっては調べなければいけないことがたくさんあるから、そういう場合はどうしても時間がかかってしまう。そうじゃなくても当社が配給するアルバムはジャンルが多彩だ。それをごく一部を除いて、ほぼ社員だけで解説原稿を書いているのだから、冷静に考えてみればスゴいことだと思う。こんな会社は日本中探しても他にないだろう。
 なんてことを威張ってみても仕方がない。実態を言えば、社外にお願いして原稿を書いてもらうお金の余裕がないという、それだけのことだ。もっと頑張ってお金を稼いで、立派な音楽評論家の先生方に解説原稿を依頼できるようにしたいところだが…。

 

6月24日(金)

 早朝、解説原稿を1本仕上げて、午後は銀行送金。そして打ち合わせ。夜は久しぶりに浅草に寄って、以前よく行っていたお寿司屋さんで夕食を取った。しかも今日は女性同伴。おかげで久しぶりにリラックスした夜を過ごすことができた。

 

6月23日(木)

 今日も終日、自宅にこもって解説原稿の執筆と、海外の取引先とのメールのやりとり。やっとマラヴォワの名盤『ジュ・ウヴェ』のライセンス契約が合意されたので、リストに掲載した。このアルバムは数年前から日本で出したいと思っていたのだが、誰が権利を持っているのかわからず、遅くなってしまった。カリブ音楽を代表する名作なので、しっかり売りたいと思う。

 

6月22日(水)

 今日も終日、自宅にこもって解説原稿の執筆。6月は初旬に税務調査なんてのがあったせいで仕事が大幅に遅れ、さらに中盤は病気になってしまったりしたものだから、今月中に書くべき解説原稿がたくさん残ってしまった。今週は土日ももちろん休めそうもないし、きっと末日までこんな生活を送ることになるのだろう。ちょっとメゲるが、なんとか頑張り通したい。

 夜は早めに寝て早朝にサッカーの日本代表とブラジル代表の試合を見る。疲れてグッスリ寝れたせいか、午前1時半には目が覚めて、仕事をしながらの観戦になった。
 結果は引き分け。日本中大喜びなのだろう。でも、冷静に見れば、ブラジルは最初から引き分けで準決勝に進めるつもりで戦っているわけだから、やはり負けと同じだ。もしもブラジルが本当に勝たないといけないと思って試合をしていたら、2対1になった時点でもう1点取る努力をしただろう。彼らがそれをしなかったのは、その時点で彼らの感覚的には3対1だったからだ。だから、こんな状況で引き分けたくらいで<次は勝てる>なんて思ったら大間違い。世界一をなめちゃいけない。

 日本代表よりブラジル代表が気になって試合を見ていたが、ロナルジーニョ(ポルトガル語もわからない奴が<ロナウジーニョ>なんて書くのはバカげている。ちゃんと背番号の上のスペルを見たのだろうか?)は前回のワールドカップのときよりもずっと大人になって、すばらしい成長ぶりだ。ビックリしたのは、ちゃんと守備もするようになったこと。これはリーダーとしての自覚だろう。そしてカカーの、23歳とは思えない老獪なプレイもすばらしい。この中盤のコンビは強力だ。
 今回はロベルト・カルロスやカフーがお休み。ベテランが少なかったせいで、若手がノビノビやっているのが印象に残った。彼らを中心に、来年はきっとすばらしいチームになっていることだろう。ワールドカップがいまからとても楽しみだ。

 

6月20日(月)

 信じられないことに、ブラジルはメキシコに負けてしまったらしい。あのタマ回しを見るとメキシコ代表はすばらしいチームだが、まさかブラジルが負けるなんて思ってもみなかった。前のアルゼンチンとの試合もあまり良くなかったが、新しいメンバーが入ったいまのチームはさらにまとまりに欠けるようだ。ひょっとして水曜の試合では、本当に面白いことが起きるかもしれない。

 なんてことはとりあえず忘れて、今日は朝から仕事。ちょっと歩くと汗ばんでくる湿気の多さには辟易するが、体調はほぼ戻ってきたようだし、自分の仕事に精を出すことにした。午前中は日曜日に発売されるシエラ・マエストラの解説原稿を執筆。午後はティナリウェンの来日関係の事務処理仕事。さらに、知らないうちにたまってしまった会計仕事。どれも慌ててやらないといけないことばかりだから、頑張らないといけない。解説は資料が揃わなくて完成とはいかなかったが、なんとか明日の朝には仕上げられそうだ。ちょっと分量が多くなりそうなのが困ったところだが…。

 昨日、昼寝なんかしてしまったものだから、就寝時間と起床時間がずれてしまい、ちょっとした時差ボケ状態。やっぱり朝早く起きないと、仕事の能率はあがらない。というより、スカッとして気分にならない。かといって、今日なんて夜1時を過ぎても、まだ眠たくならないのだから、困ったものだ。明日の朝は無理してでも早起きして、なんとか修正しないと。

 

6月19日(日)

 早く起きて仕事をしようと思ったが、昨日の外出のせいか、疲れを感じたので、今日は一日ボケッと自宅で過ごすことにした。CDを小さな音でかけて、本を読みながら過ごす一日。午後に食料買出しのために少しだけ外出したが、早めに帰宅して、少し昼寝もした。

 ただ、珍しく昼間に寝てしまったせいで、夜は目がパッチリ。眠れなったのには困った。慣れないことをするものではない。そこで、ちょうどサッカーのコンフィデレーションズ・カップの日本代表の試合がテレビ中継されていたので、最後まで観戦してしまった。
 今日の相手はヨーロッパ選手権の覇者ギリシャ。ただ、ビックリしたのが、ヨーロッパ選手権の頃とはギリシャ選手たちの動きが明らかに違っていることで、まるで別のチームのようにさえ感じられた。結果は日本の1対0だったが、これじゃ3点や4点取られていてもおかしくない。この調子では、ギリシャがワールド・カップの予選を通過することはないだろう。
 ちなみに日本代表の次の相手はブラジルだとか。ジーコ監督も気合が入ることだろう。ブラジルは絶対にナメてかかってくる。その前に、コンフィデレーションズ・カップくらいじゃ、本気を出してこない。一泡吹かせるには絶好の機会だ。ブラジルも南米予選でモタついてるようだが、ここいらで日本あたりに負けて、目覚めるキッカケを作ったほうがいい。

 

6月18日(土)

 今日も午後から外出。ここのところご無沙汰してしまっている中村とうようさんのご自宅にお邪魔して、長い間お借りしていたSPを返却した。とうようさんは、ちょうど本を書き上げたところ。これまでお忙しかったようなので、連絡するのを遠慮していたが、やっと少しお時間ができたそうなので、今日お邪魔することにした次第だ。
 ただ、執筆でお疲れになったのか、とうようさんも体調が思わしくないらしい。ぼくもここ数日ひどい体調だったが、きっと梅雨時のこういう気候のせいもあるのだろう。
 ぼくのほうは、少しは良くなったというものの、やっぱり八王子まで遠出すると、疲れが出る。久しぶりにとうようさんとお話しているのに、アマタが正常に回転せず、余計な話ばかりしてしまった。

 早めに帰宅して、夜は自宅でゆっくり読書。CDを聞きたいところだが、まだ大きな音量で聞くと、アタマが痛い。今日も早く寝ることにしよう。

 

6月17日(金)

 今日は久しぶりに外出してみた。と言っても事務所に顔を出しただけだが、やっぱり外を歩くのは気分がいい。熱があったせいで、まだ身体の節々が痛いが、体調はずいぶん戻ってきたみたいだ。

 当社から来週発売されるシエラ・マエストラのアルバムが無事到着していた。さっそく一枚を抜き出して、ちょっとだけ聞いてみた。
 以前、この日記でも書いたことがあったと記憶するが、このアルバムはぼくがコンセプトを練り、選曲のほとんどを決めて、作ってもらった1枚だ。昨年のウォーマッドでワールド・ミュージック・ネットワークのフィル・スタントン社長と話していたときに、シエラ・マエストラの新作を作ろうかと思っているんだけど、どうしようかと言われたので、日本に帰ってからいろいろ考えた上で送ったメールが、そのままコンセプトになり、録音されることになった。
 『偉大なるソンの歴史』というタイトル通り、シエラ・マエストラにソンの歴史を語ってもらおうという企画だ。なんて書けば、もうお察ししている方もいるだろう。ぼくがプロデュースしてビクターから出たモナルコの『俺のサンバ史』のキューバ音楽版だと思っていただけばいい。シエラ・マエストラはいまのキューバでもっとも伝統的なソンを演奏するグループであり、ソンの先輩たちに対する尊敬の気持ちもハンパじゃない。そんな彼らがこんなアルバムを作っても不思議に思う人は、キューバにもいないだろう。
 キューバ音楽には、コンセプト・アルバムというものがない。やたらコンセプトものが多いロックなどの影響を受けていないせいもあるのだろう。でも、そんなキューバだから、一枚くらいこんなアルバムがあってもいいんじゃないか。ぼくはそう思って、このアルバムのコンセプトを練り、選曲を考えた。シエラ・マエストラの連中にも良い経験になったはずだ。
 ちなみに、本当はぼく自身がキューバに行ってレコーディングに立ち会えばもっと良かったとは、ぼくも思う。ただ、いかんせん、いまのワールド・ミュージックはそんなに景気は良くない。ぼくの交通費や滞在費を払うだけでもタイヘンなのに違いない。そこでぼくはアイディアをタダで提供することにした。ワールド・ミュージック・ネットワークのフィル・スタントン社長は非常に恐縮していたが、でもこれくらいの貸しを作っておいたほうが、この後お付き合いしやすくなる。そう考えたら、お安いものだ。
 ただ、問題がひとつあって、なんと曲順がぼくが選んだようになっていないことだけは、困ってしまった。歴史モノのアルバムなのに、これでは意味がなくなってしまう。きっとイギリス人でキューバ音楽の歴史なんてものに興味を持っている人がいないということだろう。幸い、CDは曲順を簡単に変えて聞くことができる。だから、日本語解説には、こういう曲順で聞くべきだという文章を入れておくことにした。皆さんは、ぜひぼくが書いた曲順で聞いてください。そうしないと、このアルバムのコンセプトの意味はわかりません。
 発売は来週の日曜日。さっそくお店でチェックしてくださいね。

 

6月16日(木)

 やっと体調が戻ってきた。まだ微熱があるようなので、外出は控えたが、自宅で仕事を開始。やっぱり寝ているより仕事をしていたほうが調子がいい。

 今日はリスト作成日。今週のメインはアフロ・レゲエの重要人物ティケン・ジャー・ファコリーのアルバムだ。これは当社で独占配給をさせていただいている英ラスからのニュー・リリース。ラスは昨年もティナリウェンやハレド、ラシッド・タハなど、幅広いジャンルの重要作をインタナショナル発売してくれたが、そんな多彩な紹介をする姿勢は今年も変わっていないようだ。例年、後半になると力作をたくさん発売してくれる会社だから、今後も楽しみ。きっと、またぼくらをビックリさせるような作品を発表してくれることだろう。

 もうひとつ、新作のお知らせだが、当社では7月10日にアタウアルパ・ユパンキの晩年の録音を集めた編集盤を発売する。先週のリストでお店にはアナウンスしたのだが、これが意外に反応が良くて、地味な内容の割にたくさんご注文をいただき、嬉しい思いをさせていただいている。
 ファンの方ならご存知だと思うが、晩年のユパンキのアルバムはアメリカのミクロフォンやディアパソンといった会社でCD化されていた。これらの原盤はもちろんアルゼンチンの会社で、ユパンキはどうも1980年から5年間ほどの間に、アルゼンチンで数枚のアルバムを録音したらしい(ぼくが入手したCDは計6枚)。ただ、それらの音源は、これまで日本で発売されることがなかった。
 晩年のユパンキは、まさに悟りの境地というか、人間ここまでピュアになれるものなのかと思えるほど、なんの飾りもない、清清しい音楽を聞かせてくれる。これが最大の魅力だ。ユパンキの全盛期は50年代のオデオン時代だと、ファンなら言うだろうが、ぼくは晩年の録音で聞ける、何の欲得も感じさせない歌声が好きだ。これを機会にこの時代の音源を改めて聞きなおしてみて、ますますそう思った。
 夜に一人でしんみり聞くには、これ以上の音楽はない。発売されたら、ぜひチェックしてみてください。

 

6月15日(水)

 薬が効いたのか、昨日よりずいぶん楽になった。ただ、医者からは2日くらいは安静にといわれたので、今日まで休むことにした。返信しないといけないメールもたまっているが、見始めるとキリがない。音楽を聞いても仕事を思い出すので、これもダメ。仕方ないから本でも読もうと思ったが、これも頭痛がヒドくなりそうなので、やめた。何もできない一日というのもツラい。

 

6月14日(火)

 朝から病院へ。まだフラフラするけど、寝ているだけではとても治りそうもない。とにかく診察してもらうことにした。検査結果はすぐには出ないようだが、今日は解熱剤をもらって、とにかく安静に過ごしなさいとのこと。薬のせいか、寝不足だったのか、昼に寝ても、夜にはまた寝れる。こんなにたくさん寝たのは久しぶりだ。

 

6月13日(月)

 午前中に税理士さんと打ち合わせをした後、食事を取ったら、急に疲れを感じて、頭痛と発熱でダウン。やるべきことはたくさんあったが、仕方ないので風邪薬を飲んで寝ることに。やっぱりあまり無理するとロクなことがない…。

 

6月12日(日)

 当社の原盤をライセンス契約したいという外国のレコード会社がここのところ増えてきた。その多くは、ぼくが20年近く前に録音したサンバ・アルバムなのだが、いま頃になってこういった音源が注目されるというのも不思議な気分だ。
 というのも、作った頃はほとんど注目されず、日本ではいくつかの会社のご協力もあって発売できたが、ブラジルでは発売されなかったアルバムもあったほど。それらがCD化されるのようになったのは、まだ数年前だが、いまではまとめて出しなおしたいという大手の会社も現れるようになったのだから、時代は変わったものだ。
 かと思ったら、イギリスの会社からも編集盤に一部の音源を使いたいという要望が来たり、さらにヨーロッパの別の会社からも似たようなお願いのメールが来たり…。それぞれが契約書を添付して送ってきたものだから、契約書の数はますます増えてしまう。こんなに外国からの契約書がたまったのは、会社はじまって以来のことだ。
 そういえば、先月だったか、ずいぶん前に編集盤2枚を原盤契約したアメリカのラウンダーから印税が送られてきて、思ったより大きな金額でビックリした、なんてこともあった。大して売れているとは思えないが、ちりも積もれば山となる、ということなのだろう。
 思い出してみれば、これらのアルバムを制作した当初はタイヘンな赤字。他の仕事をしながら、なんとか借金を返すことができたのだが、当時はかなりキツかったと記憶している。でも、そんな制作経費も、こうやって少しずつ回収してゆけば、将来的にはいつか黒字になる日が来るもしれない。自社原盤をこれだけ多く持っている日本のワールド・ミュージックのレーベルは、当社くらいだと思うが、無理してやってきた仕事も、きっといつかは報われるのだろう。そう信じて、今後も少しずつ自社原盤を増やしてゆきたいところだ。

 ただ、こうもライセンス話が続くと、読まないといけない契約書がたまってしまうのが困りもの。しかも、英語あり、ポルトガル語ありで、最後まで読むだけでもかなり苦労するものばかりだ。言葉の問題だけでない。法律的に問題がないかどうかなんて、本来はその国の弁護士にでもたのまないとわかるわけないからだ。でも、弁護士を雇うお金なんてないから、なんとか自分で読もうとする。おかげで今日は丸一日、契約書の勉強で終ってしまった。

 

6月11日(土)

 疲れがたまっているので、ここいらで一日くらい休みたかったが、そうもゆかない。たまっている解説原稿書きに本腰を入れないと。午前中はパソコンに向かって、ひたすら原稿書き。でも、こういう本来の仕事をしているときには、さほど疲れない。楽しんで仕事ができる。
 そして午後は事務所に行って、86年に作ったウィルソン・モレイラのファースト・アルバムのマスタリング。ぼくがプロデュースしたサンバ・アルバムで唯一CD化されていないのが。この作品で、実はマスターテープを紛失していたのだが、先にブラジルを訪れた際に、クアルッピ社の倉庫からそれを偶然<発見>。やっとCD化ができることになった。久しぶりに聞くと、内容はムチャムチャすばらしい。こんな良質のサンバ・アルバムは、いまではそうは簡単にできないだろう。近いうちにライスから発売する予定なので、ご期待ください。

 

6月10日(金)

 今日は残務仕事の第2弾。海外への送金と、これまでほうっておいた細かい手続きの仕事を終らせた。これでいちおう正常の状態に戻ったことになる。後はたまりにたまっている解説書きの仕事をどんどん片付けるだけだ。

 こうも慌しい日ばかりが続くと、さすがに疲れがたまる。また肩がこってきた。そんなこともあって、夕方は久しぶりに早めに終了。夜は自宅でリラックスすることにした。アマリア・ロドリゲスなど、ファドのアルバムを聞きながら、ワインを少し。こんなゆっくりした夜は久しぶりだ。

 

6月9日(木)

 税務署と裁判というふたつの大きな雑務は解決したものの、ここのところあまりに忙しく過ごしたので、まだまだ後回しにしている案件は多い。自宅の机には書類が山のようにたまってしまっている。サインして送ればすぐにお金がもらえるライセンス契約書まであるくらいだから、困ったものだ。
 そこで今日は、丸一日かけて、そのすべてを整理。雑務仕事をできるところまで終らせようと決意した。朝からすべての書類に目を通して、メールを送る。午後は事務所から契約書などを郵送だ。そして帰宅してから、今度はメールの返事を書きまくって、夜10時過ぎにやっと片付いた。今日送ったメールは全部で50本以上。先方の都合でまだ解決していない要件が少し残ったが、机の上はずいぶんきれいになった。
 これで明日送金などを済ませれば、週末からはやっと本格的な仕事に手をつけられそうだ。

 最近のもうひとつの悩みが、疲れがたまると夜にジンマシンが出ること。今日もそうだった。肝臓が悪いのかと思ったが、最近はほとんどお酒を飲んでいないので、そうではないらしい。時間ができたら一度病院でしっかり検査してもらおうと最初に思ったのは、実は2ヶ月ほど前。でも、忙しくて後回しになっていた。2ヶ月ほど前にはじめた歯の治療も途中でほったらかしにしているし、新しく作り直そうと思った眼鏡もそのままだ。さすがに40代後半。身体のあちこちにガタがきている。これらの用件も、時間ができたらなんとかしたいところだ。
 まあ、焦っても仕方がない。とにかくひとつずつ片付けてゆくしかないでしょう。明日も頑張ろう。

 

6月8日(水)

 午前中にアンディー・パラシオの解説を書き上げて、午後は再び打ち合わせ。今日も半分は雑用だ。
 ただ、良い知らせがひとつ。月曜日の税務調査についてだが、税理士さんからの報告によると、ぼくの帳簿のミスで一部申告漏れがあったものの、それ以外はまったく問題なし。追徴課税は400円で済むとのことだ。これでこの件については一件落着。ひと安心することができた。

 それじゃ祝杯を、と思っていたら、夜はサッカーの日本代表が北朝鮮に勝利。ワールドカップへの切符を世界で最初に獲得してくれたから、ますます盛り上がってしまった。夜10時過ぎからどこかに飲みに行く気にはなれなかったので、自宅でひとりぼっちの祝杯となったが、それでも今日のお酒は美味しい。フラストレーションがたまりっぱなしの最近だったが、これで少し解消することができた。

 さあ、今度はブラジルがアルゼンチンとの大一番だ。どっちがワールドカップ行きを決めるだろうか。

 

6月7日(火)

 午前中にロベルタ・サーの解説を書き上げて、午後は弁護士さんと打ち合わせ。今日も仕事らしい仕事ができたのは午前中だけで、フラストレーションの解消とはならなかった。
 ただ、今週発売となるロベルタのアルバム、世間の評判も良いみたいで、注文もたくさん集まっているようだ。しばらくニュースのなかったブラジル音楽。そんな中で登場した新星歌姫だけに、きっとみんな期待してくれているのだろう。もちろん、期待にお応えできる内容だとぼくは確信している。週末には店頭に並ぶので、ぜひチェックしてみてください。

 実は昨日は税務調査だけでなく、ぼくが関わっている裁判の控訴審の初日でもあった。税務署の調査があったので見に行けなかったが、今日弁護士さんに聞いたところでは、審議は昨日だけでおしまい。7月下旬には判決が出てしまうらしい。第1審はこちらが勝訴しているのだが、もし2審で判決が変わるようなら、もっと長い審議があるはず。初日で終ってしまったということは、すぐに控訴棄却という可能性が高い。もしそうなってくれれば、雑用がひとつ減って、とても嬉しいのだが…。
 毎日書いているように、とにかく身の回りの雑用や悩み事をぜんぶ終らせて、早く自分の仕事に専念できるようにしたい。これほどちゃんと仕事をしたいと思うのは、はじめてだ。

 

6月6日(月)

 はじめて税務調査なるものを経験。しかも朝10時から夕方5時までビッシリ。今日もそれだけで一日が終ってしまった。
 内容については、ここで詳しく書いても仕方のないことばかりだが、とにかくあまり以前のことばかり聞かれるので、それを思い出すことに疲れはててしまったという感じだ。これは何のために使ったお金ですか、とか聞かれても、過去の出費のことを全部が全部覚えているわけではない。そうじゃなくても、書いてしまった原稿の内容なんてすぐに忘れてしまうのが自慢(?)のぼくだ。お金の話だって、一度帳簿を作ったらアタマから離れてしまう。それを思い出すには、普通の人よりずっと労力がいるのだ。ましてや経理だけをやっているわけじゃなく、他にもたくさん仕事をしているのだから、あまり細かいこと聞かれたって、そんなことまで覚えてるわけないだろうと開き直りたくなる。
 そんなわけで今日も本格的な仕事がまったくできない1日。ますますフラストレーションがたまってしまった。明日はロベルタ・サーの解説を仕上げないといけないし、アンディー・パラシオの解説にも手をつけないといけない。他にもやるべき仕事がたくさんたまっている。税務署のほうは、何かあったらまた連絡します、なんて悠長なことを言っていたが、たまっている仕事が全部片付くまでは、少し静かにしていてもらいたい。
 とにかくいまは、どうでもいい雑用はとっとと終らせて、普通に仕事を精を出したい気分です。

 

6月5日(日)

 今日はいつも通り早起き。朝は近くの公園を散歩してから、自宅の仕事場で解説原稿などに取り組んだ。今日書いたのは、来週ライスから発売されるロベルタ・サーのアルバムの解説だ。

 ロベルタにはブラジルでも会っているが、帰国した後も何度かメールのやり取りをしているうちに、すっかり仲良しになってしまった。あのペドロ・ルイスも彼女を狙っているらしいという噂を聞いたが、ぼくが彼女と仲良くしているのは、もちろんそういう意味ではない。せっかくの久しぶりの若手の有望株。なんとか良い歌手に育って欲しいと思っているからだ。
 やはり仲良しになったテレーザ・クリスチーナやペドロ・ミランダもそうだったが、いまのブラジルの若い世代は、古い音楽でも良いものなら虚心で聞いてくれる。妙に肩肘張ってオリジナリティを目指すよりも、とにかく良い音楽を作りたいという素直さが、いまの若い世代の特徴のようだ。ぼくはそんな彼らの姿勢を評価しているが、ロベルタもその点では共通している。だから、彼女には何かプレゼントを送ってあげたくなるのだ。まあ、ぼくなんかが協力して役に立つかどうかわからないが、ライス盤のブラジル音楽のCDを送ってあげるくらいなら、邪魔にはならないだろう。

 

6月4日(土)

 会社は休みだが、ぼくのほうは休むわけにはゆかない。税務調査でつぶれてしまう月曜日にやるべきだった仕事を進めておかないと。解説原稿も書かないといけないものがたまっているので、調べものもしないといけない。しかも昨日は深夜までサッカーを見てしまったので、起きたのはお昼近く。これだと、一日がすごく短く感じられる。やりたいことは山ほどあるのに、思ったように進まない、もどかしい一日。

 疲れがたまっているのか、肩がこって仕方がない。そこで夕方に、また近くのマッサージ屋さんに行ってきた。先週に続いて、これで3回めだ。いつも同じ女性にマッサージをしてもらっているのだが、一番ヒドかった頃に比べたら、少しはほぐれてきたのだとか。それでも、普通の人よりかなりこっているのだそうだが…。今日は腰から足にかけてもマッサージしてもらったのだが、どうも痛い肩だけをしてもらうよりも効果があるらしい。おかげで今晩はゆっくり眠れそうだ。

 

6月3日(金)

 朝から税理士さんと打ち合わせ。来週の月曜日に税務署の調査が入るので、そのための準備で午前中をつぶしてしまった。
 準備と言っても、帳簿の改ざんなんかをしたわけではない。当社は売り上げも仕入れもすべて銀行振り込み。現金での取引がまったくない会社だから、脱税なんて、やろうと思ってもできるものではない。でも、それなりに準備をした理由は、ただひとつ。調査を出来るだけ速やかに終らせたいからだ。
 当初、税務署は2日間調査したいなんていっていたが、2日も相手をするなんて冗談じゃない。そこで1日にしてくれと要望したのだが、税理士さんによると1日で終らなかった場合は、また継続することもあるのだとか。そうならないように、書類を全部すぐ出せる状態にしておけるようにしておこうと思ったわけだ。
 しかし、実際にやってみると、過去7年分の書類や領収書類を全部引っ張り出して、すぐ出せるようにするだけでも、けっこうな手間がかかる。仕事場の一角が、書類だけでいっぱいになってしまった。経理部とかがあるくらいの大きな会社ならこれほど手間はかからないのだろう。でも、社長自ら経理をやっている当社のような会社では、そうは簡単にゆかない。外国旅行の後の忙しいときに、なんでこんな面倒なことをしないといけないのか…。本当にウンザリしてしまった。

 午後は事務所で注文などの打ち合わせをして、夕方からはサンプルのチェック。ここのところ雑務ばかりでバタバタしてしまい、旅行中に送られてきたサンプルは、まだ半分も聞けていない。税務調査なんてさっさと終らせて、早く正常に仕事できる状況に戻さないと…。

 深夜はサッカー観戦。日本代表のすばらしい組織力が印象に残った。特に中田英の闘志溢れるリーダーぶりは、往年のブラジル代表ドゥンガを思い出させるほど。3バックでやる場合、中田はボランチのポジションのほうが機能するようだ。

 

6月2日(木)

 昨日、ブラジルのグラミー賞に当たるらしいPREMIO TIM(チン杯)が発表されたようだ。友人やレコード会社各社が送ってくれたメールによると、今年はレニーニが4部門も受賞。最優秀サンバ・アルバムは、ネイ・ロペスの新作になったらしい。
 思えば、ぼくがプロデュースしたモナルコの『俺のサンバ史』(ビクター)がこのチン杯を受賞したのが、昨年のこと。あれからもう1年も経ってしまったのだから、早いものだ。もともと賞なんてものに興味があるわけではないし、この賞がどれくらい権威のあるものかは知らないが、でも昨年のモナルコや今年のネイのように、マイナー会社から出た作品でも大賞を取れるということは、審査員たちはそれなりにちゃんとレコードを聞いてくれているのだろう。そう思うと、せっかくレコードを作ったからには、賞を取ってみたくなる。残念ながら、昨年から今年にかけてはブラジルでは何も作品を発表していないので、今年は賞に関わることができなかったが、いま作っているショーロ・アルバムを早いところブラジルでも発表して、来年はまた何かの賞をいただけるよう頑張りたい。
 ちなみに、来年はぼくがブラジルでプロデュースの仕事をはじめて20周年。ちょうどチン杯の発表がある6月が、はじめてのアルバムを録音した月だった。そこで、もしもチン杯を取れることになったら、来年の6月にはリオのどこかの劇場を借りて、大々的に20周年パーティをやろうという企画も浮上している。そんなにうまくゆくものかどうかはわからないが、人間、何か目標があったほうが一生懸命仕事をするものだ。とりあえず、来年の目標のひとつに入れておいてもいいだろう。

 

6月1日(水)

 今日からもう6月。一年の半分近くが過ぎようとしているのだから、早いものだ。

 そんな今日は、毎月お決まりの外国送金の日。空いている午前中に銀行に行って、送金を済ませた。今月も送金件数は10件以上。新しい取引先もますます増えてしまった。これでは送金手数料もバカにならない。本当は、輸送料金のことを考えても、取引先の数は少ないほうがいいのだが、大きなレーベルで内容が優れたアルバムを継続して出している会社なんて世界に存在しない。これも仕方ないのだろう。でも結局、銀行や運送屋など、大きな会社ばかりがしっかりお金を儲けさせていると思うと、なんかイヤな気分だ。

 これもいつものことだが、会社仕事が立て込む月末と月はじめは、自分の仕事がなかなか進まない。やらないといけないことはたくさんあるのに、全部中途半端な状態。これではストレスがたまってしまう。おまけに来週は税務調査があるので、それなりの準備をしないといけないから、ますます自分の仕事が進まない。旅行の疲れもまだ抜けていないし、どこかで一日ゆっくり休みたいところでもあるのが、それもいつになることやら…。

 

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