11月30日(日) 朝早く起きて、あれこれ用事を済ませた後、10時には名古屋へ出発。午後1時に到着して、お昼ご飯を食べながら打ち合わせ。さらにもうひとつ打ち合わせをこなして、夕方4時過ぎの新幹線で帰ってきた。わざわざ名古屋まで行かなくても良かったような用事だったが、でも顔をあわせて話をすると、決まることがすぐに決まる。結局は行って良かったようだ。 名古屋駅の近くで号外を受け取る。見たら、イラクで邦人の外交官が2人、殺害されたと書かれていて、驚かされた。いや、驚かされた、という表現は正しくない。こうなることは事前に予想できたのだから、とうとう来たな、くらいが正しいのだろう。同じ日にスペインの情報機関の人も7人殺されているようだし、アメリカに協力するものは全部敵だということを、今後も行動で示してくるに違いない。きっと自衛隊なんかが行ったら、真っ先に狙われるだろう。わざわざ殺されるために自衛隊がイラクに行く必要は、もちろん、ない。 名古屋往復ですっかり疲れてしまったので、夜は自宅でゆっくり。ただ、この週末も掃除する時間が取れなかったので、部屋が相変わらず雑然としていることが気になった。たまりにたまったサンプル盤が片付くのはいつの日か…。 |
11月29日(土) というわけで、今日は朝帰り。本当は仕事の予定もあったのだが、こんな状態でできるわけがない。午後から散歩がてらに本屋さんに行って買いたかった本をいくつか購入。帰宅後は、昨日エル・スールでまとめ買いしたCDをあれこれチェック。そしたらまた疲れがドッとでてきたので、早く寝ることにした。今日はもうお酒は飲みたくない。 寝る前にFOREST BEATをチェックしていたら、昨日の忘年会で、今年の個人ベスト10を年末までにこのサイトで発表するような話になったらしい。そんな約束をしたかどうか、まったく記憶にないが、しているとしたら破るわけにはゆかないので、考えることにしよう。仕事を離れた自宅での愛聴盤は、手元に並んでいるのですぐに選べるけど、意識してここには置いていない自社発売のアルバムも含めて選ぼうとすると、タイヘンなことになる。同じ基準で選べるものかどうかも疑問。さあ、年末に向かって、迷いそうだ。 |
11月28日(金) 今日は今月の最終営業日。朝早く起きて、できるところまで解説原稿書き。午後からは銀行で支払いをしたり、戻って伝票の整理をしたりと、会社仕事を一通りやっつけて、さらに新宿で打ち合わせを1本こなした後に、8時過ぎに渋谷のエル・スール・レコード。今晩はここで今年はじめての忘年会だ(出席者についてはFOREST BEAT参照)。 これがなんと、翌日の始発まで! みんな終電で帰るのかと思ったら、いやあ、予想以上にタフでした。ちなみに、ぼくがこんなに長い時間お酒を飲むのは、5年ぶりくらい。しかも日本酒をたくさん飲んだので、誰と何を話したか、全然覚えていない。ほんと、酔っ払ってしまいました。 |
11月27日(木) いつも通り、木曜日は大忙し。朝からリスト原稿を作るために、あれこれと資料をチェック。ポルトガル語やら英語やらフランス語やらの文章を斜め読みするわけだけど、今日は送られてきた資料の分量が多かったせいか、いつもより時間がかかってしまった。しかも、原稿を書いていたらコンピュータが突然異常をきたして、保存もしていない状態でストップ。せっかく作った項目が全部なくなってしまったのにはガッカリだ。そしてリストをなんとか終わらせたら、今度は解説原稿書きをスタート。明日は今月の最終営業日なので、まだまだ出荷もあるから、少しでも多く仕事を終わらせないといけない。なんだか慌しい一日でした。 そんなわけで、昨日入ってきたブラジル盤新譜は、まだなかなか聞く時間が取れないけど、とりあえず一枚だけ、ピシンギーニャの若き日の録音を収めたCDを聞いてみた。ピシンギーニャの初期録音は、以前『メモリアス・ムジカイス』というボックス・アルバムで大量復刻され、その時は珍しく『レコード・コレクターズ』に紹介記事を書かせていただいたけど、今回はそこでも復刻されなかった「ラメント」の初録音が収録されているのが売り(というか、ぼくが勝手に楽しみにしていただけだけど)。フランス帰りのピシンギーニャが、ジャズの影響を受けて作ったのが「ラメント」で、当時はあまりにアメリカンナイズされた作品ということで大批判を浴びた。でも、これは予想されたことだけど、いま聞くと、どこが批判されたのかわからないくらい、当時のピシンギーニャらしい洒落たアレンジだ。ちょこっとだけ、ショーロっぽくないハーモニーも使われているけど、目くじら立てるほどのものじゃなない。きっと当時はピシンギーニャもまだ若かったから批判の対象になったという程度の話なのだろう。 という感じで、聞きどころはたくさんあるこのアルバムだけど、同時に問題も散見。第一に、全曲の作曲者とその出版社はしっかり書かれているのに、録音年とか、参加音楽家とか、もっと大事な情報がまったくクレディットされていないのにはガッカリだ。エンリッキ・カゼスの解説だって1ページしか与えられてないし…。こういうのを見るから、自分でやった方がいいと思っちゃうんだよね。ライスの復刻盤をどれか一枚、これをお手本にしろという手紙をつけて、ブラジルEMIに送りつけてやろうかという気になった。 |
11月26日(水) 昨日に続いて、今日はブラジル盤が大量入荷。しかも新譜がゴッソリ入ってきた。週末には店頭に並ぶと思うけど、これだけの数の新譜が一度に入ると、ブラジル音楽ファンは出費がかさみそうだ。ボーナス、しっかり出てくれるといいですね。 ところで、昨日の日記に<ライスの復刻シリーズのファン>なんて書き方をしたけど、そんなファンの皆さんが存在することを、ぼくはつい最近になって気がついた。というのも、当社の復刻シリーズは、これほど幅広いジャンルの復刻ものを出しているこのシリーズなんて他に存在しないだろう思われるほどだが、でも不思議なことに、当社の復刻シリーズの場合、ハワイのレナ・マシャードも、ブラジルのノエール・ローザも、キューバのアルセニオ・ロドリゲスも、フラメンコのニーニャ・デ・ロス・ペイネスも、だいたい売れ行きが変わらない。これは、全部お買い上げいただいているファンがたくさんいらっしゃるとしか、考えられない。サンビーニャ・ブランドをそこまで信用してくださっているなんて、本当にありがたい限りだし、そんなファンの存在に気がついたので、来年はもっと復刻シリーズに力を入れようと考えはじめた次第だ。 さらに、昨日も書いたけど、来年に向けて新しいアイディアが目白押し。もう1ヶ月ちょっとで来年なので、鬼は笑わないと思うから書いちゃうけど、来年は、ぼく自身による復刻シリーズだけでなく、当社のオリジナル作品全体の比率をもう少し高めたいと考えている。ご好評いただいている中村とうようさんの復刻シリーズもいくつかアイディアがまとまりつつあるし、しばらくストップしていたぼく自身のプロデュースによる新録ものもやりたいものがたくさんある。 今年はサンビーニャにとって、世界のいろんなレーベルと幅広くお付き合いをすることを目指した一年だった。おかげで配給できる音楽の種類は大幅に広がったけど、その分自社の独自製品が少なくなった。来年はそんなディストリビューターとしての仕事は継続しつつも、独自商品を増やして、さらに音楽の発信者としても世界に貢献したいと思っている。日本でそんなことをやっているワールド関係のインディ・レーベルなんて、いままで存在しなかったし、誰かが頑張ってみるのもいいだろう。 さて、どんなものが登場するのか、楽しみにしていてください。 |
11月25日(火) いくら寝ても風邪が完全に抜けきらない。今日もまだ微熱があるけど、でもこれ以上寝ているわけにはゆかないので、仕事を再開させた。今日は英ワールド・ミュージック・ネットワークなどが入荷。さらに今週ライスから発売される『砂漠のフェスティアヴァル』も入ってくる。今週はかなり忙しくなりそうだ。 ぼくの方は朝から原稿書き。さらにリストの準備、銀行での支払いと続いて、大忙し。そうなんです、今日は当社の給料日だったのでした。ただし、今日給料が出るのは、社員だけ。ぼく自身の分は、月末まで出そうにない。まあ、社長なんてそんなもんだし、いつものことだから、慣れてしまったけど。 お知らせがひとつ。11月は忙しくて手がまわらなかったけど、12月からはライスのオリジナル復刻シリーズを再開させるつもりだ。とりあえず12月に出るのは、しばらく前から実質的に廃盤になっていたハワイアン最高の女性シンガー、レナ・マシャードの改訂版。さらに、やはりずいぶん前に廃盤になり、再発の要望が多かったブラジルのノエール・ローザも、近いうちに改訂版を出す予定だ。ともに以前出したアルバムの良いところは残しつつ、かなり曲目を入れ替えるつもり。また、当然マスタリングもすべて新しくやり直すので、音はムチャクチャ良くなる。以前お買い上げいただいた方々にも、また買っちゃおうかなと思わせる内容にするつもりですので、期待してください。 また、来年に向けて新しい復刻アルバムのアイディアも目白押し。こちらのアイテムについてはまだヒミツだけど、すごく面白いものが出来るはずですので、ライス復刻シリーズのファンの皆さんは楽しみにしていてください。 |
11月24日(月) どうしても風邪が治らない。昨日に続いて、今日も家から一歩も出ず、とにかく風邪を治すことに専念した。普段薬を飲まないぼくみたいな人は、飲むと効きがスゴい。8時間も寝た後なのに、薬を飲んだらすぐに眠くなるし、本も読んでいられない。夜には少し気分が良くなったので、ちょっとだけ明日の仕事の準備をしようとしたが、結局睡魔には勝てず、途中で断念した。 明日には治っていると良いのだが…。 |
11月23日(日) 今日は完全休養日。昨日から風邪気味だし、火曜日から思い切り忙しくなる前にしっかり直したかったので、今日は最初から身体を休めるつもりでいた。とにかく寝るだけの一日。目覚まし時計もかけずに、ひたすら寝て、起きてお昼ご飯を食べた後も、サッカー中継を見ながらうたた寝。さらに夕飯を食べてからも、ちょっと本を読んだら、また眠たくなってきた。風邪薬のせいもあるのだろうけど、こんなにたくさん寝たのは久しぶりだ。 |
11月22日(土) 連休の初日。と言っても、もちろん休めるわけがない。朝からひたすら原稿書き。そしてサンプル・チェック。午後は少し疲れたので、耳休めに最近の愛聴盤を少し。実はここ数日よく聞いているのが竹内まりやの『ロングタイム・フェイバリッツ』と『インプレッションズ』で、今日もこの2枚にばっちりハマッてしまった。竹内まりやはぼくにとって最高の癒し系。別の言葉で言えば、一番仕事を忘れさせてくれる歌手だ。以前ならあまり聞かなかったタイプの音楽だろうけど、いまこれがないと生きてゆけない。 夜はサンバ好きの友人と、17年ぶりに会うことに。もう20年以上前のこと、日本人サンバ歌手森本タケルさんのライヴのお手伝いをしたことがあったのだが、その時に知り合ってからずっと交流が続いていたパーカショニストの小林さんが、飲みに誘ってくれたのだ。ずっと交流があったと言っても、電話で話すくらいで、お互い忙しいから、なかなか会えない。気がついたら、最後に会ってから17年たっていた、という感じだ。 でも、いくら久しぶりに会っても、サンバの話になると、すっかり昔に戻ってしまう。ぼくらがサンバやショーロを聞きはじめたのは1970年代だが、その時代には名作アルバムがたくさんあった。それらについて、あそこが良かったとか、最近CDで聞き直したらここがすばらしく感じられるとか、話しはじめると、もうキリがない。思い切り盛り上がってしまった。 思えば、解説原稿は別にして、ぼくが人とこんなにサンバの話をするなんて、本当に久しぶりのことだ。 |
11月21日(金) 今日は一転してポカポカ陽気。昨晩は風邪薬を飲んでゆっくり寝たせいか、今朝は少し体調が戻ってきたようだ。そこで今日は仕事に精出すことに。朝から事務処理仕事をこなして、午後遅くからは原稿書き。来週は今月の最後週なので、できなかった仕事をすべて終わらせないといけない。ハードな週末になりそうだ…。今日は英スターンズと、アラブ盤が無事入荷したようだし。 新聞によると、トルコのイスタンブールでは、先のユダヤ教寺院に続いて、イギリス総領事館のあるビルも爆破されたようだ。イスタンブールには当社の取引先がある。彼らのことが気になって、さっそくメールを送ってみたが、まだ返事がこない。来週はイスラム正月(ハリラヤ)だというのに、こんなことが起きるなんて…。 トルコの人々も気の毒だが、それ以上に心配なのがイラクの状況だ。いまのイラクはほとんど昔のベトナム状態。日本の自衛隊なんて行っても役に立たないくらい、本格的なゲリラ戦になってしまったようだ。こうなることを予測していた人は、アメリカ国内にもたくさんいた。それを無視して戦争を強行し、結局こういう結果を生み、さらにあちこちに迷惑をかけているブッシュってのは、つくづく無能なのだと思う。アルカイダも元気になってしまったようだし、これから先も何が起きるかわからない。ブッシュが誰に暗殺されようと、同情しないが、全然関係ない人たちが迷惑をこうむるのだから、いやになる。 今朝の新聞では、ブッシュやブレアはまだ<テロに対して妥協しない>と同じ言葉を繰り返しているようだけど、相手は逆に、ブッシュたちがやったことこそテロ行為だと主張しているのだから、この言葉は意味がない。国連すらも認めていない戦争をしたのだから、それも当然だ。だからこれはテロリスト同士の戦いであり、そこに仁義も何も存在しないのもまた、当然ということになってしまう。 ブッシュやビン・ラディンが何をどう考えるかは、この際どうでもいい。それよりぼくが心配してしまうのは、イラクの現場でいま起きていることだ。イラク国内ではアメリカ兵が<テロリスト>を探しているが、そこでアメリカ兵たちが一般のイラク人たちにどれだけ横暴かつ失礼なことをしていることか…。これだけ戦争が長引けば、兵隊たちだってイライラしているだろう。理性も失っているに違いない。その中で、彼らがどんな態度を取っているか(あるいは、イラク人にとって、どういう態度に見えるか)、だいたい想像がつく。これでイラクの人々は、ますますアメリカが嫌いになるだろう。そうすれば、アルカイダにとっては、いま以上にやりやすい状況ができる。アメリカが強気に出れば出るほど、相手の術中にはまることは、誰にでも想像できる。ベトナム戦争がそうだった。 そんないま、アメリカにできることは、ただひとつ。一刻でも早くイラクから手を引くことだ。それ以外に考えられない。いまそんなことをしたらイラクが無政府状態になると言う人もいるだろうが、少なくとも現在の、憎悪をともなった無政府状態に比べたら、少しはマシだ。手を引くのが遅くなればなるほど、後に残された憎悪は増幅する。そうなってからでは、もう取り返しがつかない。 いま手を引いたら、アメリカは戦争のもとが取れない、というのが、ブッシュのホンネなのだろう。でも、石油の利権欲しさに起こした大儀のない戦争でもとを取れるほど、世の中、甘くない。そんなアメリカをいつまでも許すようなお人よしは、もうアラブ世界にはいなくなったということだ。そうさせたのが、アメリカ自身がこれまでやってきた横暴な行為であることは、言うまでもないが。 イスラム教徒の友人も多く、アラブ圏の音楽にも大きなシンパシーを感じているぼくみたいな人間にとって、本当に胸が痛む事件ばかりが続く。人々は、テロリスト同士の仁義なき戦いより、話し合いによる解決、そしてその後にやってくる平和を求めているに決まっている。そうなる方向に一歩でも進んでほしいと、心の底から願う。もしもそうしてくれる神様がいるのなら、ぼくだってお祈りしたい気分だ。 |
11月20日(木) 昨日に続いて絶不調。どうも風邪気味のようで、寒気がするし、くしゃみは出るし、お腹は調子悪いし…。昨日から食欲がなかったのはその前触れだったようだ。普段は風邪なんて引かない方なのに…。きっと疲れているんでしょう。こういう日は、いくらコンピュータには向かっても、仕事に身が入らない。温かいものでも食べて、早く寝るしかない。 |
11月19日(水) 早起きしようと意気込んで寝たら、目が覚めたのがなんと午前3時。そのせいだろうか、どうも気合が空回りする一日になってしまった。 ぼくの一日は、いつも朝のメール・チェックからはじまる。主に外国から送られてくるメールを起きてすぐにチェック。返事を書いて、それからシャワーを浴びて朝ごはん。その後が仕事のはじまりだ。今日も、こばんを食べて、さあ仕事頑張るぞと気合を入れたのだが、でもなぜか原稿書きがまったく進まない。早起きしすぎて、昨日の疲れが取りきれなかった感じだ。 そこで予定変更。明日書く予定だったリストの原稿を書くことに。それからはいちおう調子を取り戻して仕事をすすめられたが、それでもペースは遅く、片付いたのはやっと夕暮れ時。午前3時からはじまった長い一日が、リストだけで終わってしまった。思い出してみれば、お昼ごはんも食べていない。食欲もない…。 今朝も受信メールが多かったが、その後もひっきりなしにメール攻勢。さらに夕方5時から7時頃は、いつもぼくの2回目のメール・チェック時間なのだが、ここでも大量のメールがやってきた。この時間に、ヨーロッパでは会社がはじまる。彼らも最初にメールの返信とかをするのだろう。ぼくの方としては、今日中に返信しないと、仕事が丸一日遅れてしまうので、さっそく返事を書かないといけない。こんな生活をしていると、たまにはコンピュータのない生活をしてみたくなります。 なんてグチを言っても仕方がない。取りあえず、メールの返事を書いて、その後はサッカーのカメルーン戦でも見よう。ご飯は昨晩のおでんの残りがあるから、作る必要はない。今日はもう疲れました。 |
11月18日(火) 昨日のブラジル盤に続き、今日はトルコ盤が入荷。新作アルバムのサンプルもまとめて入ってきたようだ。ただ、ぼくはそれらを聞く余裕がない。今日はひたすら解説原稿の執筆。朝早くから夕方まで、コンピュータを相手に原稿書きに集中した。それも西アフリカのバ・シソコからブラジルのガロート、ガーナに戻ってパームワイン・ミュージックの新録、さらにサンバものと、まったく違ったジャンルの解説だからタイヘンだ。でも逆に、もし同じジャンルの解説だったら、飽きてしまって、これほど書けないような気も…。 おかげでいまはアタマがボーッとした状態。こんな時に気持ちをリフレッシュするCDは何かと思ってアレコレ考えた末、ライトニン・ホプキンスを聞くことにした。実は今月号の『ブルース&ソウル・レコーズ』がライトニン特集だったこともあって、3日ほど前から彼のCDを引っ張り出していたのだった。 ライトニンを聞いていて落ち着くのは、他でもない、自分の会社で発売することも、ましてや解説などを書くことも、絶対にないアーティストだからだ。最近のサンビーニャは、アフリカやアラブなど、幅広いジャンルを扱っていることもあって、自分で文章を書くことは絶対にないジャンルがどんどん狭まってきた。そんないま、残されているのは、ロックやソウルやブルースなど、アメリカ音楽くらい。だから、リフレッシュ・タイムにはアメリカものを聞くことが多くなっている。SPで50年代の女性ヴォーカルを聞いているのも、そのせいだ。 でも、ワールド・ミュージックを聞いてきた耳で聞くライトニンは、ロックと黒人音楽しか知らなかった時代とは明らかに違って聞こえる。白人音楽と黒人音楽という二元論でしかアメリカ音楽を考えられなかった時代とは、ぼくもずいぶん変わったということだろう。だからライトニンはどんな音楽を聞いてこういうスタイルを作り上げたのか、なんてことをとても素直に考えられる。もちろん考えたからって、すぐに結論が出るわけではないが、いずれにしても、しばらく聞いていなかった音楽を、他のジャンルをさんざん聞いた後に聞き返すというのは、とても新鮮なものだ。そのうち、このページでこっそりロックやブルースが語られることになったりして。 さあ、明日はカメルーン戦だ。夜はテレビを見ないといけないから、明日も早起き必至。今日も早く寝ることにしよう。 |
11月17日(月) サンビーニャはいつも月の後半に荷物が多くなる。意識してそうしているわけではなく、取引先のリリースが中盤あたりにまとまっているので、それが後半に入ってくるためだ。今週はブラジル、トルコ、アラブ、さらに英スターンズと、各地の取引先から荷物がやってくる。おまけに先週入荷した仏アリオンや仏メロディや英ワールド・ミュージック・ネットワークの商品にオビや解説をつけないといけないので、事務所の方は今月で一番忙しい週になりそうだ。 ぼくの方は、朝からひたすら原稿書きや取引先への連絡メールなどに没頭。気がついたら、もう夕方だ。昨日買ったCDを聞きたいところだが、そうもゆかない。明日も忙しそうなので、今日は早く寝よう。 |
11月16日(日) 昨日は少し飲みすぎたのか、今日はどうしても早起きできず、しかも昼間に女子マラソンなんかを見てしまったから、ますます仕事が進まない。普通、日曜は一番仕事がはかどるのだけど、今日ばかりはダメだった。やっぱり疲れているのだろうか。 こういう時にはジタバタしても仕方ないので、マラソンのテレビ中継が終わったら、外出することに。まずは池袋の本屋さんに行って、新刊をチェック。その後は新宿に場所を移して、レコード屋さんめぐりだ。ビートルズの『レット・イット・ビー・ネイキット』、竹内まりやの『ロングタイム・フェイバリッツ』、それにニール・ヤングの新作とかを購入。ワールド・コーナーでは、久保田麻琴の最新プロデュース作(ベトナム音楽!)にも手が伸びる。ワールド・コーナーを見ていたら、ハリス・アレクシーウの新作など、アオラさんの商品が多く並んでいるのが印象に残る。頑張ってるなあ…。 その後は新宿のレコード屋さんで待ち合わせしていたDさんと、打ち合わせ兼飲み会。久しぶりに行きつけの韓国料理屋さんに行ったら、内装がまったく変わっていたのにビックリ。内装だけキレイになって、いきなり料理がマズくなっていたらどうしようと思ったが、食べてみたら味の方は大丈夫。以前と変わらなかった。 Dさんとは、来年のアフリカ関係のプロジェクトについて打ち合わせ。ぼくはいままでアフリカを訪れたことはないが、来年は2度か3度、Dさんと外国に行くことになりそうだ。それにアングレームのフェスティヴァルとかWOMEXとかもあるし、さらにキューバ行きやインドネシアでのレコーディングも予定しているから、月に1度は外国に出るなんてことになるかも。サンビーニャがスタートした頃まではしょっちゅう成田空港に行っていたぼくだけど、その頃に戻ってしまいそうだ。 ちょっと疲れてきたとはいえ、まだまだ40代半ば。こういう外国での仕事はいまやっておかないと、近い将来、体力的に出来なくなるかもしれない。来年は少しアクティヴに過ごそう、なんて、思いはじめた次第。 |
11月15日(土) 昨日は父の3回忌があり、親戚が集まった宴会でお酒を飲まされたので、そのまま実家にお泊り。でも、母と久しぶりにいろいろ話ができたし、父の若かった頃の話も聞けたし、有意義な一日だった。 で、今朝は朝起きして帰宅。さっそく仕事に取り掛かる。いっぱい溜まっている外国の取引先からのメールの返事を書かないといけない。これがハンパな数じゃないから、タイヘンだ。夢中になってパソコンに向かって仕事をしていたら、もう夕方。最近は日の出が遅くて日の入りが早いから、一日がとても短く感じられる。 土曜日と日曜日は休めないと覚悟しているのだけど、人が遊んでいる時に仕事というのは、なんとなく寂しいもので、夜くらいは外に出たくなる。出ると行っても、行くのはいつもの家庭料理屋さん。煮っ転がしを食べながら、ちょっとお酒を飲んだら、もう眠たくなってしまった。安上がりにできてるなあと、最近つくづく思います。 |
11月14日(金) 朝早く起きて、ライスから23日に発売されるバ・シソコの『サボラン』を繰り返し聞く。もちろん解説原稿を書くためだ。クリスチャン・ムセのマラビ・レコードからの新作だが、これがなかなかの快作。WOMEXから帰国する飛行機の中ではじめて聞いて以来、すっかり愛聴盤になってしまった。 バ・シソコはギニア出身の若手音楽家。もちろん、グリオの出身で、曲を作って歌うだけでなく、コラなどの伝統楽器も演奏する。このバンドは彼を中心とした4人組で、全員が20代前半の若手なのだそうだが、コラ2台にベース、パーカッションという編成(アルバムではアディショナル・ミュージシャンもつく)で、疾走感溢れる若々しい演奏ぶりが印象的だ。アフリカ音楽をお好きな人なら誰も好きになってしまうに違いない。 その内容については、アルバムを聞いていただきたいが、このアルバムを聞いていて改めて印象に残ったのが、コラという楽器の成熟度の高さだ。コラはもちろん伝統楽器だが、現在では西アフリカ(ギニアやマリ)のポピュラー音楽の伴奏に欠かせない楽器になっている。ギターやキーボードなど、チューニングがしっかりした楽器と合奏可能ということは、コラ自体が伝統音楽の楽器だった時代よりずっと洗練され、しっかりした作りになっていることを意味する。7月のWOMADでフランスのロジョというバンドを見たとき、ヴァイオリン奏者がいきなりコラに持ち替えて演奏したのだが、その時も伝統楽器らしいブレのようなものを感じさせなかった。 伝統音楽の楽器で、キーボードと一緒に演奏しても大丈夫なくらいしっかりチューニングができるものは、意外と少ない。インドネシアのポピュラー音楽でガムランがいつもサンプリングなのは、ホンモノではチューニングが合わないからだ。また、伝統楽器とは呼びにくいけどハワイアンのウクレレだって、かなりチューニングがアブない。反対にウクレレの兄弟であるはずのブラジルのカヴァキーニョは、最近はかなり洗練されて、精度の高い楽器ができている。 このような楽器の成熟は、音楽の成熟と同時進行で進む場合が多いように思える。コラの成熟は、西アフリカのポピュラー音楽の成熟と足並みを揃えている、ということなのだろう。そしてここまでくると、コラはすでに西アフリカの伝統的なポピュラー音楽を超えて、どんなジャンルの音楽にも通用する。なんだか、ぼくも自分のプロデュースするアルバムにコラを入れたくなってきた。 西アフリカのコラとマダガスカルのヴァリハは、形態そのものも似ているし、おそらく同ルーツの楽器なのだろう。さらにインドネシアには、ヴァリハの祖先とも思われる楽器もある…なんて書いてしまうと、ぼくがコラをどのように使おうとしているのか、バレてしまうかもしれないが、でも単純にすべてのインドネシア音楽にコラが合うわけではないので、いいかげんな試みはしない方がいい。どんな音楽にどのように使うべきかは、西アフリカ音楽とインドネシア音楽の両方を熟知した人でないとわからない。ぼくもコラという楽器そのものをもう少し勉強して、そのうち誰かのアルバムで試してみることにしよう。すでにアイディアのひとつやふたつはあるんだけど、いまのところヒミツです。 |
11月13日(木) |
11月12日(水) 朝から実家に行って、父の3回忌の準備。それから弁護士さんのところにいって、相談を少し。午後は再びサンプルのチェックだ。その合間に、今週発売するシティ・ヌールハリザの新作アルバムを試聴する。今回はハリ・ラヤ(イスラム正月)向けのアルバム。そのせいか、同じ伝統スタイルでも、最近のそれよりずいぶん軽めの作りだ。 今回のシティの新作は、はじめて当社の田中昌くんに解説を担当してもらった。 シティのアルバムを出すスリアだけでなく、マレイシアのレコード会社はどこも発売されるまで絶対にサンプルCDRなどを作らない。そうして外部に音が漏れることで、海賊業者の餌食になる可能性があるからだ。実際、シティのアルバムでも、サンプルを作ったせいで、ホンモノよりも先に海賊CDが市場を賑わしたことがあったとか。だから、スリアでは、シティらのアルバムが完成しても、社長以外はCDRを持てない。スリアは自社スタジオを持っているからこそそれができるが、外のスタジオを使っている会社はしばしばスタジオから海賊会社に音源が漏れて、タイヘンなことになる。マレイシアの海賊業者は、レコード業界に情報網を張り巡らせているようだ。 というわけで、スリアから発売以前に送られてくるのは、せいぜい曲の冒頭30秒だけを収録したカセット(しかも音は劣悪)。それすら来ない時だって多い。だから、タイヘンなのは、解説原稿書きだ。当社としても、他の輸入会社より遅れて入荷というわけにはゆかないので、慌てて発売するわけだが、そうなるとスケジュールは思い切りタイト。スリアから完成品を受け取って、その翌日には解説を仕上げるなんてのが普通だ。それじゃ、原稿の外注なんて、できっこない(そのスケジュールで引き受けてくれる物書きはいない)。シティのアルバム解説をずっとぼく自身が書いてきたのは、そんな理由からだ。 ただ、今回は昌くんに任せてみた。いまの時点で、ぼくよりずっとマレイシアやインドネシアの音楽を聞いているのが昌くんだからだ。以前からインドネシア音楽のサンビーニャ・シリーズのアルバム解説を彼に書いてもらっていたが、たまにはシティのような大物の解説を書くというのもいいものだろう。以前、ぼくはもうブラジル盤新譜はまったくフォローしていないと告白したが、実はインドネシアやマレイシアの新譜も、ここんところほとんどフォローできていない。そんなぼくなんかより、良く聞いている人が書いた方がいいに決まっている。 ただ、ブラジル音楽もそうだけど、新譜を聞いてないからって、ぼくがインドネシアやマレイシアの音楽に対して情熱を失ったという意味ではない。それどころか来年あたり、久しぶりにインドネシアでのレコーディングも考えている。新譜を聞くか聞かないかと、その音楽に対する気持ちは別のものなのだ。ぼくがインドネシアのどの部分にいまも関心を持っているかは、そのレコーディングが決定した時にでも、この欄に書くことにしよう。 夜はアトンの小島さんとメタ・カンパニーの内山さんと3人で飲み会。今日も女性2人に囲まれてお酒を飲むことになった。実は、この日記は家を出る前に書いているのだが、というのも、小島さんと飲んだら、その後に日記を書くのは絶対に不可能だと知っているからだ。最近の女性たちは、すっかりお酒が強くなりました。 |
11月11日(火) 朝早く起きて、再びサンプル・チェックと、メールの整理。WOMEXで知り合った人たちなど、最近になってやりとりする相手が急激に増えたせいで、未返信メールがたまってしまっていた。それを整理するだけでもタイヘンで、けっこう時間がかかってしまった。親しい友人たちのメールの返信はすぐにできるけど、仕事がらみの人には、いいかげんなことを書くわけにゆかない。だから時間がかかる。もちろん、友人にいいかげんなことを書いているという意味ではないのだけど…。 土日の休日返上はしばらく続きそうので、ぼくの休みは火曜日と金曜日にしようと思ったのだが、それもなかなかスケジュール通りにゆかない。ただ、今日はさすがに疲れがたまっているので、午後からはリラックスすることにした。自宅にいると、仕事のサンプルなどがどうしても目に付くので、本を1冊だけ持って外出。結局浅草に行って、古いヤクザ映画を見たり、六区あたりをブラブラする。そして夜は、先月に続いて<あらまさ>さん。美味しい料理をたっぷりと楽しんだ。 |
11月10日(月) 朝からサンプル・チェック、午後からは銀行支払い、そして夜は打ち合わせ。月曜日らしく、あわただしい日だった。帰宅したら、もう10時。疲れがたまっているようで、すぐに眠たくなってしまった。 |
11月9日(日) 昨日は結局、終電で帰宅。けっこうお酒も飲んでしまったみたいで、朝はちょっとツラかった。でも、今日はやることがたくさんある。WOMEXでもらったサンプルもまだ聞き終えてないうちに、各社から別のサンプルが送られてきて、それらを聞きながら、メールの返事も書かないといけない。結局そんなことをやっていたら、もう夕方になってしまった。 そこで慌てて選挙会場へ。投票を済ませて、食事の支度をして、選挙関連のテレビ番組を見ながらご飯を食べる。最終的な結果が出るまではとても起きていられなかったが、今回の選挙は民主党の大躍進で終わったようだ。2大政党の時代を望んでいる、なんて言われているけど、そんなことより、いまの自民党のある部分に対する反発の大きさがこうさせたのだろう。小泉総理に安倍幹事長の人気をもってしても、これだから、もしも彼らがいなかったら、自民党はとんでもないことになっていたに違いない。 道路族やら郵政族やらのいわゆる族議員たちがそんな利権に食いつくことで利益を得ていることは、国民の誰もが知っている。いま知りはじめたのではなく、高度成長の時だって、バブルの時だって、知っていたはずだ。それでも、彼らがノウノウとしていられたのは、当時は国民たちも、自分にもそういった利権のおこぼれがあったという気がしていたからだろう。でも、いまは違う。おこぼれがきたという実感がなくなったから、今度は腹立たしい。なんとかしてくれといいたくなる…。 でも、ぼくはふと思うのだけど、いまの景気って、本当にそれほど悪いのだろうか。小泉首相が選挙中に<3年くらいは景気は良くならない>と言って物議をかもしたが、きっと彼は本心では、景気なんて良くなるわけはない、いや、ならなくてもいいんだと思っているのではないだろうか。だとしたら、それは正しいと、ぼくは思う。 サンビーニャがバブルが終わってしばらくしてからはじめた会社のせいもあるのだろうが、ぼくはいまの景気をさほど悪いと思ったことがない。景気の良かった時代に商売をしていないから、昔は良かったといくら言われても実感がわかない。でも、サンビーニャあたりが出している商品が、それほどバカスカ売れるわけはないし、売れないという前提のもとで仕事をしているから、さほどショックも感じない。こんなマイナーな商品を取り扱っていて、なんとか社員全員が貧しい思いをしないで食べてゆける。そんな会社が存在できる状態なのに、景気が悪いと言われても、あまりピンと来ない。 バブルの時、ぼくは原稿書きだったので、景気がいくら良くても、それほど大きな儲けにはならなかった。でも、そこで大儲けして、一度肥大してしまった会社は、元に戻すのはタイヘンなのだろう。これはダイエットみたいなもので、それで体力を消耗してしまった会社は数多い。でも、その時に大もうけしていないサンビーニャは、もとからスリムだから、ダイエットによる消耗なんて無縁だ。給料は、もとが少なかったせいもあるけど、悪くなるどころか少しずつだけど毎年上がっているし、同業の他社と比べて悪い金額でもない。音楽好きの人間が、毎日音楽に接して仕事ができて、これくらい儲けていれば、あと何を望むことがあるのだろうか。 景気なんて良くならなくていい。もっと儲けたい人は、自分でさらに頑張ればいいのだ。いくら景気が悪い悪いと言っても、頑張ればなんとかなる状態に、まだ日本はいる。小泉さん、景気とか経済とかは気にしないで、肥満体排除の抜本的改革に集中してください。 |
11月8日(土) 今日は午前中に税理士さんが事務所にやってくる日。そのため、朝早く起きて会社の帳簿整理をすることになった。サンビーニャには経理部なんてのはないから、帳簿はぼく自身がつける。毎日つけていればどうってことないのは知ってるけど、ついつい怠けて、一月分まとめてやることになるから、タイヘンな作業になる。結局、5時にはじめて、終わったのが税理士さんが到着する朝10時直前。5時間もかかってしまった…。 午後は、中村とうようさんのご自宅に。とうようさんがコンピュータを買われて、いま勉強中なのだそうだが、ぼくはそのお手伝いを少しだけさせていただいた。ただ、コンピュータ関係の話は少しだけで、後はとうようさんが最近凝っているというDVD話に。最近買われたという貴重なDVDを見せていただいたりしたが、中でも1920年代後半のキューバのエストゥディアンティーナの映像には思わず見入ってしまった。ソンのセプテートと似たような編成なのだが、ボンゴがなくて、代わりにティンバレスが入っている。キューバ音楽にはまだまだ未知の部分も多いが、その一端を見せてもらった気になった。 その後、とうようさんとは、近くのお寿司屋さんでお酒を飲みながら話し込む。お会いするのは久しぶりということで、すっかり話がはずんでしまった。 |
11月7日(金) 今日は久しぶりのお休み。昨晩は珍しく遅くまで本を読んだりして過ごしたので、今朝は10時起きだ。こんな時間まで寝ているなんて、ホントに久しぶり。 昨晩読んだのは、船戸与一の冒険小説。以前から、一晩で一気に本を読みたいときにはこの人の小説に手が伸びてしまうのだが、ここのところそんな時間が取れないので、すっかりご無沙汰してしまっていた。そんなわけで、昨晩読んだのは、旧作。ブラジル北東部を舞台にした『山猫の夏』だ。 ただ、読んでいて気になったのが、どうも以前読んだ時のような感動がわかないこと。それどころか、船戸作品のニヒルな部分が、どうもいまのぼくの感覚とズレているのを感じてしまった。最初に読んだ当時といまとでは、ぼくの感覚が大きく変わってしまったということなのだろう。 船戸の小説は、とくかく登場人物が次々と死んでゆく。革命的な行為をしている当の本人は、絶対に最後まで生きていない。これが船戸作品のもっともニヒルな部分だ。船戸はきっとチェ・ゲバーラのような生き方が好きなのだろう。ぼくもそういう時期があったから、当時は船戸作品を楽しめた。 いまでもぼくはチェ・ゲバーラは好きだ。でも同時に、革命家として死んでいった彼だけではなく、その後もずっと生きてきたフィデル・カストロにも、同じくらい共感を持っている。戸井十月さんの『銅像なき権力者』を感動して読めたのもそのせいだ。 ぼくがフィデルを好きになったのは、自分で会社というものをはじめて、それ以前のフリーランサーの状態よりも、社会というものに直面するようになったせいだと思う。革命人生の半ばで死んでしまったチェ・ゲバーラと違って、フィデルは長い間権力者の座について仕事をしてきた人だから、伝説にはなりにくい。キューバ革命は、ちょうどぼくの生まれた年の出来事。だからフィデルが権力の座について、もう44年になる。その間には失敗もあったし、間違いもあったし、良かったことばかりではない。そのことは、彼自身もよく知っているだろう。 でも、いまのぼくがフィデルを偉いと思うのは、いくら失敗しても間違っても、すべてにおいて強い責任を持ってやってきたことだ。アメリカが相手をしてくれなければ、ソ連に砂糖を売らないといけない。それは、フィデルだって、いやだったろうけど、でもキューバ人たちを飢え死にさせるわけにはゆかないから仕方がない。フィデルの44年はそんなことの連続だったが、彼は一度たりとも、責任を放棄することがなかった。 責任を持って仕事をするという作業は、とにかく愚直なことだ。ニヒルな方が反体制っぽくて格好良いのかもしれないが、ぼくはいま、なぜかそんな愚直なフィデルが好きなのだ。 最近、ぼく自身がすごく変わったなと思うのは、例えば早起きするようになったことだ。それによって生活パターンが変わり、同時に人生に対する考え方も大きく変わった。 実は音楽評論家をやっていた10年間、ぼくはずっと完璧な夜型だった。起きるのは、「笑っていいとも」がはじまるお昼頃。寝るのは、当時徳光さんがやっていた「ズーム・イン朝」くらいだ。これをほぼ10年続けていた。 それが突然変わったのは、会社をはじめた6年前。だんだん変わったのではなく、いきなり変わった。会社だから、10時くらいにははじめないといけない。だから8時くらいには起きないと、ということで、いきなり起床時間が早まった。さらに、社員のみんなが来る前に解説の1本くらい仕上げておかないと仕事が進まないという理由で、2時間早い6時起きが定着。最近になると、やる仕事が多い日にはもう2時間早い4時に起きる。こうなると、寝るのは久米さんのニュース番組の途中くらい。筑紫さんの顔は、もうしばらく見ていない。 もうひとつ変わったのは、以前は深夜でないと原稿が書けなかったのに、いまでは逆に朝じゃないと書けなくなったことだ。原稿だけではない。アルバムをプロデュースするアイディアも朝じゃないと浮かばないし、外国でレコーディングするときも、日本にいるときと同様に、朝9時にスタートさせる。かわいそうなのはミュージシャンたちで、いつもは夜型の生活をしているのに、ぼくが行くといきなり朝型にシフトさせられる。 でも、こうして朝仕事する生活をやってみてわかったのは、やっぱり人間、お天道様が出てる時に生活した方がリズムが良いということだ。ぼくだって、夜のほうがテンションが高まることは知っている。当時は原稿を書いていて、妙に盛り上がったことがあった。反対に、朝早く起きてやる仕事はクールだ。テンションが高まることはないけど、周りをしっかり見渡せる。 力任せにノリで書くような原稿なら、夜にやった方が面白いものができるかもしれないが、ある程度緻密な調査が必要なものは朝の方が絶対に良い。言い方を変えれば、平岡正明さんみたいな原稿は夜しか書けないけど、アルバムの解説原稿などは朝の方が向いている、ということだ。 平岡さんの文章は、ぼくも一時期好きだったけど、船戸さんの小説にズレを感じはじめたいまは、あまり進んで読もうと思わない。夜中にドラッグしながらレコーディングしたことは、ぼくも若い時にあったけど、そんな音をいま聞きたいと思わないのと同じ理由だ。妄想の世界よりも、いまは現実をしっかり見つめたい。そんな気分でいる。 なんだかまとまりの悪い終わり方になってしまったけど、このテーマはまた別の機会に掘り下げてみることにしよう。 |
11月6日(木) 今日はリスト作成日。一週間で一番忙しい日なのに、朝目覚めた時から寒気がするので、薬を飲んで2度寝することにした。お昼に起きたら少し良くなっていたが、結局リストは最低限のものだけで終わり。それ以上は頑張れなかった。スペインから帰国して、完全休養日はゼロ。そろそろ疲れがたまってきたのかもしれない。 今週入荷予定だった英スターンズなどの荷物が来週になったので、明日は珍しく新入荷のない金曜日。土曜日も日曜日も忙しそうだし、明日休みを取らせてもらうことにしよう。 |
11月5日(水) 朝早く起きてライスから出る『ハイダル・ハイダル〜マスターズ・オヴ・ターキッシュ・ミュージック』の解説原稿書き。本当はもっと早く書かないといけなかったのだけど、さすがにトルコ古典音楽のアルバムだと、勉強しなきゃいけないことが多くて、時間がかかる。本当はもう1本、遅れている解説原稿があって、これも書き上げたかったのだが、明日のリスト原稿の準備もはじめないといけない。今朝早く、ブラジルからは新譜のインフォメーションが大量に入ってきたからことだし…。 事務所の方も、今日はブラジル盤が入ってくる日なので、大忙し。今週の入荷はいつもより少なめだけど、それでも2人だけで出荷作業をするは大変だ。在庫も多くなってきたし、そろそろ事務所を引っ越して、同時に新しいスタッフを入れないといけない時期なのかもしれない。 |
11月4日(火) ファイルーズの『アラブ歌謡の女神』(ライス VDR-529)の初回入荷分を売り切ったという話は2〜3日前に書いた。こういう地味なアルバムが売れるのは、嬉しい限りだが、売れたら売れたで、また考えることも増える。せっかくこのアルバムでファイルーズを好きになってくださったファンの方々のために、他のアルバムも用意しないといけないからだ。そう思って、今日は朝からアラブ関係のCDをアレコレと聞き返すことになった。 当社の<アラブの歌声>シリーズは、アラブ歌謡の歴史を築き上げてきた名音楽家たちを紹介する目的ではじめたのだが、いちおうここで完結にしようと思っている。ここから先は、歴史から少し離れて、アラブ音楽のより深い世界を楽しんでもらえるようなアルバムを出してゆくつもりだ。ここからはライスではなく、サンビーニャ・シリーズの方で出してゆくことになるだろう。 ファイルーズのアルバムにはまだまだお聞かせしたいものも多いし、人気の高かったアスマハーンも同様だ。さらに、もっと最近の現代アラブ歌謡の最前線の音楽家たちも、今度の新しいシリーズで少しずつ紹介してゆきたいと思っている。<歌声>シリーズでアラブ音楽の面白さに目覚めたファンの皆さんは楽しみにしていてください。 そうそう、当社ではライスとサンビーニャというふたつのレーベルがあるが、これらの違いについてよく質問されるので、この際だから説明しておこう。 基本的はライスもサンビーニャも、当社が推薦する作品という意味では、まったく変わりない。ともにオビと解説がつけて配給しているし、定価設定商品である点も同じだ。さらに、ライスの方がサンビーニャより重要作品が出ているというわけでもない。また売れ行きを見ても、ライスの方が常に多いわけではなく、サンビーニャ商品でライス商品よりも売れているものはたくさんある。 ただ、ひとつだけ方向性に違いがあるとすれば、ライスの方が基本アイテム、あるいは長くカタログに残しておきたいアイテムが多いこと。それに対して、サンビーニャの方は、もう少し応用編のアイテムが多いことだろう。 当社が取引させていただいているお店は、都内の超大型店から地方の小さなお店まで、多岐にわたっている。同時に、CDをお買い上げいただいているお客さまも、つい最近ワールド・ミュージックを聞きはじめた初心者の方から、ゴリゴリのマニアの方まで、さまざまだ。だから、当社が配給する商品も、初心者向けとマニア向けをある程度わかりやすくしないといけない。だから、地方の小さなお店でも置いていただいて間違いない基本アイテムはライスで。もうすこしツウの人も来るようなお店ではサンビーニャのものも、という感じで、区別しているのだ。 ただ、これもあくまで目安程度のもので、サンビーニャで出ているものにも、結果的にお店では基本アイテムとして扱っていただいているものもあるし、逆のパターンもある。ぼくがどういうつもりでリリースしたか、なんてことはお構いなしに、お店での扱い方は勝手に一人歩きするもので、でもこれはぼくがとやかく言うものでもないから、成り行きにまかせているというのが正直なところだ。 もうひとつ大きな違いは、ライスの商品は雑誌にレビューされるけど、サンビーニャ商品はされない、というのもある。これも、ぼく自身としてはあまり大きな違いだと思っていない。ライスの商品は雑誌にサンプル盤を送るから載るだけで、サンビーニャのものだってもしも送れば載るのだろう。でも、こうしてホームページを見ていただけばわかるように、当社のリリース点数はものすごく多い。もしサンビーニャ商品までサンプルを送っていたら、ワールドもののレビューの半分以上が当社の商品になってしまうだろう。それじゃ他の会社や、取り扱ってくださる雑誌に申し訳ないから、基本アイテムが多い(とぼくが勝手に思っている)ライス商品のサンプルだけを送らせていただいている。当社だけがあまり目立ってしまうのも、なんだか良くないでしょう。 とにかく、話は最初に戻るけど、ライスだろうがサンビーニャだろうが、こうしてオビ/解説付で配給させていただいている商品のすべては、ぼくがお勧めするCD。その点は変わらない。どうぞ、安心してお買い求めください。 今日はブラジルへの注文日。あんなにたくさん取ったマリア・リタが早くもなくなったので、また大量注文になった。ホント、いつまで売れ続けるんでしょう、このアルバム。ブラジル音楽の新譜でこんなに途切れずに売れ続けるアイテムは久しぶりだ。 この週末はどのお店も繁盛したようで、今朝ファックスを見たら、バック・カタログ注文がたくさん入っていた。この調子で年末まで乗り切れればいいんだけど。とにかく頑張ろう。 |
11月3日(月) |
11月2日(日) 今日も朝から原稿書き。午後はサンプルと格闘して終わる。どのサンプルが面白かったという話は、企業秘密だから書けない。そのうち、無事に交渉が成立して発売にこぎつけたらご紹介いたしましょう。 こうしてワールド関係のサンプルを聞いていると、夜はまったく違った音楽が聞きたくなる。そんな時にふと手が伸びるのが、SPレコードだ。月に1回か2回くらい、なぜかSPを無性にかけたくなる時がある。ジャンルはなんでもいいから、とにかくSPの音を聞きたくなる。 サンプルCDなどをたくさん聞いた後にSPを聞きたくなるのは、それが聞き流せないものだからかもしれない。CDは70分でもノンストップでかかるけど、SPは3分で終わってしまうし、手動で止めないといけないから、聞くほうにも緊張感がある。きっとこの緊張感が、LPやCDでは得られないから、わざわざSPを聞きたくなるのだ。だから、SPをたくさん聞いた後は、音楽に対する感性がリフレッシュした気になる。サンプルCDを聞きすぎてマヒした心を、SPレコードは優しく治癒してくれる。 今日聞いたのは、アメリカの黄金時代のポップス。50年代の歌謡っぽい女性ヴォーカルものなんて、SPで聞くとすごく味わい深い。深夜にこういうのを聞いて、ちょっとお酒なんか飲んだら、もう最高だ。もちろん、お酒はちょっとだけにしないと、手元が狂ってSPを傷つけることになるから、注意しないと。いやあ、今日は楽しい夜だ。こんな日がもっとあればいいんだけど。 |
11月1日(土) 今日も早起き。でも、昨日は昼寝をしなかったので、帰国してはじめてしっかり寝れたという気分だ。頭もスッキリ。風邪も治ってきたようだし、昨日までに比べたら、かなり調子が戻ってきた。 というわけで、会社は休みだけど、いつも通り、休日返上の原稿書き。それに、WOMEXで各社からいただいたサンプルのチェックをしないと。目の前のCDの山を見るとウンザリするけど、月曜までの3日間で終わらせないと、ほかの仕事もあるので、ますますタイヘンなことになる。 というわけで、午後からサンプル・チェックがスタートしたわけだが。目の前のサンプル盤の山を見て思い出したことがひとつ。 あれは音楽評論家の仕事をはじめた15年くらい前だっただろうか、いきなりレコード会社からサンプルなるものが大量に送られてくるようになり、それらをセッセと聞きながら、大好きだったレコードが嫌いになりかけたことがあった。それまでは、もちろん自分の小遣いで買っていたのに、その何倍もの量のレコードがタダで送られてくる。最初はすごく幸せなことだと思ったけど、でも実際にやってみると、けっして楽しいばかりではない。サンプル盤の中には、自分では絶対に買わないようなつまらないものも大量に含まれているわけで、だからそれまでは聞かずにすませたものまで聞かないといけなくなる。しばらくそんなのを大量に聞かされていたら、仕事がどんどん嫌いになっていった。 中でもタイヘンだったのが『ミュージック・マガジン』の<アルバム・レビュー>だ。ぼくが担当していたラテンの分野でも、ワールド・ミュージック・ブームだったせいもあるのだろう、月に20か30タイトルくらいの新譜が出ていたと記憶する。そのうち<ランバダ>ものだけで7タイトル、なんて時もあった。もちろん、そんなブーム追随商品で面白いものあるわけない。そんなのを、どっちのが良いとか、ちゃんとレビューしないといけなかったのだから、タイヘンだ。ご存知のように『マガジン』ではそれぞれに点数をつけなきゃいけないから、ますますプレッシャーがかかる。 しかも、あの仕事は、月刊誌の他の原稿が終わった頃に締め切りがやってくる。長い文章をいくつか書いて疲れきった状態で、そんな地獄のレビューをやるわけです。いま思えば、よく毎月やっていた、という感じだ。 でも、さらにいま思えば、そのときに習得したサンプル・チェック術のようなものは、いまになって役立っているような気がする。 これはレコードに長年親しんできた人ならわかってもらえると思うけど、多くのレコードと出会ってきた経験の積み重ねで、全然知らないアーティストのアルバムでも、それが面白いのかつまらないのか、なんとなく聞く前からわかる、ということがある。どこに判断基準があるのか、と聞かれても、困る。でも、なにか匂ってくるものがあるのだ。 だから、実を言うと、いま目の前に並んだ大量のサンプルの中で、どれが面白いか、もうだいたい把握している。当たる確率は、結構高くて、80パーセントくらい。 要するに、昔やっていた仕事も、役立つことがあるということです。人生、無駄に過ごした時間なんてない。<ランバダ>をたくさん聞かされたのも、けっして無駄じゃなかった、という美しいお話でした。 他の人が休んでいる日に一日中仕事じゃ悔しいので、夜は久しぶりに外出。いきつけの家庭料理のお店で舌鼓を打つことに。スペインのハムも美味しかったけど、やっぱり日本にいると煮物とか刺身とか焼き魚だ。お刺身を食べたら日本酒が飲みたくなったけど、明日も早起きしないといけないので我慢、我慢。 ところで、このサンビーニャ日記の原稿を書くのは、いつも寝る直前。だいたい少しお酒を飲んでからだ。しかも非常に疲れた状態で書いているので、文章はヒドいし、タイプ・ミスも多い。でも、それを気づいたからって、後でいちいち直す気にはならない。日記なんだから、文章の完成度なんかより、素の部分がそのまま出ている方がいいんじゃないかと思っちゃうからだ。 というわけで、ミスを見つけて、なんだ、こりゃ、と思う人もいるかもしれないけど、ご容赦を。毎日書いていれば、そのうちもっと上手な文章が書けるようになるでしょう(本当かな?)。 |